抗超常現象産業現場対策作業員の日常3
「あー、もしもし主任?俺です三枝です。対策規模レベルの再評価と応援の予備要請を依頼お願いします。あ、制圧次第すぐ連絡しますんで、連絡なければ……。あ、はい時間は主任判断で。200秒後に状況開始なんで、よろしくお願いします」
三枝は端末をポケットに入れて、唸り声に満ちた茂みの奥を睨む。
熊があらわれた。
熊があらわれた。
猪があらわれた。
鹿があらわれた。を反復10回といったところだろうか。熊がやけに多い。
「さて、俺たちもそろそろやるかねぇ」
各班戦闘状態に入り、よどみ無い処理スピードで獣を死体に、死体を4-22「丙」に変換していく。
こちらにも当然襲い掛かってくるわけで、三枝は散弾銃を発砲していく。
「ははは、現実的じゃないな。抗超常対策の現場だから当たり前っちゃ当たり前なんだろうが、こりゃ昔やったテレビゲームにそっくりだわ。後輩はこういうの見覚えあるかね?」
発砲音。
「自分がやったのは死体を盾にできるんすけど、こうも早く草になられては、不可能な作戦ですかね」
マヨネーズを絞る音。
「さえぐさ は 12 のけいけんちを えた。
やくそう を てにいれた
とかあるだろうよ。ジャンルが違うのかねぇ」
装填音。
「いやまぁ、言われてみればそうですけど、現実とゲームの区別がつかない子供じゃないんですから……超常だろうと現場は現実として対処しましょうよ。うわコレ食いきれねぇ。三枝先輩、討伐要請じゃなくて摂食要請必要じゃないすかコレはもう」
咀嚼音。
「どのみち応援なら人が来るんだ。どっちの対処もしてくれるだろうよ。何ならそこのカレー鍋に突っ込んでこれば良いだろう」
会話と事務的な動作を何度か繰り返しただろうか。
各々の作業員の傍らには、山のような「やくそう」が積み上がっていた。
接地した状態だとそこから土壌の汚染が拡大していくので、事前に用意したブルーシートの上に整理されている。
「先輩、そろそろ肉食いたいです。僕はベジタリアンでもヴィーガンでもないので、肉食いたいです」
「諦めろ後輩よ!この辺の生きた肉は、確実に殺した瞬間に草に変わるからな!」
三枝は非情な超現実を突き付け、駒井に対してこれ見よがしのように、ポケットに隠し持っていた干し肉を噛みちぎった。すごく良い笑顔で。