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憧れの彼女

~憧れの彼女~


 黒髪。まっすぐな前髪。ふわっとして優しそうな顔立ち。少しまるっとした輪郭。ネコの様な目。白い肌。


 今俺の頭の中は憧れの彼女でいっぱいだ。


(ふ~ん、こういう子がタイプなんだ)


 いや、天使ちゃんの声はものすごくタイプなんだよ。


(いいわよ。はいはい。頑張ってくださいね)


 なんで冷たいんだ。まあ、明らかに他の女の子を思っているのだからそりゃ申し訳ないと思うよ。


 でも、この思いは変えられないんだ。もう一年以上も想いつづけているのだから。そりゃ、天使ちゃんはマジ天使だから心動かされないわけじゃない。でも、顔が見えないからな。


(顔がわかったらどうなの?)


 そりゃ、好きになるかもしれない。恋に落ちるかもしれない。だって、俺、女の子とこんな風に話すことなんてあんまりないからさ。


(ちょっと話しかけられたら好きになるの?そんなことで?)


 いや、違う。天使ちゃんってほら、俺のことすっごい考えてくれてるじゃん。だからだよ。その思いがうれしくて。


(まあ、考えているというか、私の声が聞こえるのはあっきーだけだしね)


 そうなの?ってか、天使ちゃんはどこから来たんだろう。


(わからないの。あまり思い出せなくて。というか、何を覚えていて、何を忘れているのかもわからないの。私の声が聞こえるのはあっきーだけだし)


 ひょっとしてさみしいとか。もう天使ちゃんたらそう言ってくれたら俺いくらでも話しかけるよ。もう、ずっと話していたっていいくらいだし。


(それは大丈夫)


 って、ものすごく冷たく返されたし。でも、今日は大丈夫。ニュー俺な感じ。コンタクトにも慣れてきた。髪型も変わった。服装は制服だからどうにもならないけれど。


(まあ、私服は変えた方がいいわね。この前なんてジャージだったし)


 由緒正しいジャージだよ。動くにジャージは最適さ。


(おしゃれじゃないけれどね。あっきーがモテなくてもいいならいいわよ。私の忠告を聞かないのなら)


 いえ、聞きます。聞かせていただきます。天使ちゃんの言うことを聞けば世界が変わるんだから。さあ、今日もいい天気だな。


(すごい曇天だよ。雨降りそう)


 おい。天気くらい空気読めよな。まあ、いいさ。曇りでも雨の中でも俺は関係ない。俺には天使ちゃんがついているのだから。さあ、いくぜ。


 俺は制服に着替えて下に降りる。


「うわ、お兄ちゃん。何そのかっこ」


 そこに居たのは俺と血がつながっていると思えないくらいかわいい妹だ。


(かわいい子ね。でも、似ているわよ。ちゃんと見て)


 そう言われて妹を見る。妹ちあきは一つ下。高校一年生だ。何をやっても優秀。俺よりも頭のいい学校に通い、見た目はものすごくかわいい。


 髪を少しだけ茶色に染めて、澄んだ瞳をしている。色も白い。まあ、これは家系だけどな。俺も白い。焼けにくいのだ。


 そして、学校で人気らしい。だが、不思議と彼氏がいない。中学の時もやたらとモテていた。だが、彼氏がいたことはない。


 俺なんかこの妹のためになんか知らない相手からラブレターを渡せとか言われたことが何度もあるくらいだ。


 ま、実際渡すことなんてしないがな。んでも、どこをどうみたらこの妹と俺が似ているというのだ。


(なんか雰囲気が似ているじゃない。あっきーもどちらかというとかわいい感じの顔をしているしね)


 うれしくねぇ。かわいいって言われて喜ぶ男子がいるのか?


「何、お兄ちゃん。そんなにじろじろ見ないで。なんか見た目はちょっとましになったからと言って」


「はいはい」


 まあ、お前を見ていたわけじゃないんだけれどな。俺は今絶賛天使ちゃんと語らい中だ。だが、ちょっと妹の様子が違う。


 いつもは本当に汚物でも見るような目で俺を見て、距離を開けるのだが、今日は普通に会話をしてくれている。


 いつもなら「どいて」とか「邪魔」しか言われないのに。まあ、大体年頃の兄妹ってそんなものだろう。


(そうなの?仲のいい兄妹だっていると思うんだけれど)


 いや、そんなのは物語の中だけだ。ブラコン、シスコンなんてものはリアルには存在しない。そんなものが存在していたらこの世は崩壊するはずだ。


 あのちあきがデレるはずがない。あいつも自分であっきーと名乗っているし。そこ被せてくるかっていつも思う。


「私先に行くから。じゃあね」


「ああ、気をつけろよ。それに、この前この付近で銀行強盗があったらしいからな」


 ま、その情報は入院していた時に病院で知ったんだけれどな。入院って結構暇なんだよ。って、俺普通に妹と会話している。ここ最近なかったことだ。


(そうなの?)


 ああ、そうなんだ。ここ最近なんか会話すらなかったんだ。これは多分天使ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう。


 もう、感謝してもしきれないくらいだ。って、何が変わったのかわからないけれど。


(やっぱり見た目は大事よ。最低限の清潔感は必要だし)


 って、俺ってそんなにひどかったの?


(ひどいというか、ちょっと髪がぼさぼさででかいメガネをかけていて、下向いているから怖かったかも。今は背筋もぴんって張って、髪型もいい感じだし、コンタクトだし。見違えたよ)


 それもこれも、天使ちゃんのおかげだよ。


(違うわ。髪を切ってくれたあの人、眼科の先生。みんなに感謝するのよ。美容院には後一か月に一回は絶対に行くこと。わかった)


 はい、わかりました。もう天使ちゃんの声に絶対従うからね。あ、そろそろ学校に行かないといけない時間だ。


 俺はカバンを手にとって大きく深呼吸した。頑張れ。ニュー俺。大丈夫。変わったんだ。鏡で顔を見る。なかなかかっこよくなったように見えなくもない。


(大丈夫。かっこいいよ)


 じゃあ、天使ちゃん俺と付き合ってくれる?


(それはどうかな~)


 やっぱり、かっこよくないのか。


(そういう問題じゃなくて、お互いまだ知らないことだらけじゃない)


 俺の思考は天使ちゃんにだだ漏れなんですけれど。これで俺のこと知らないって言われたらどうすればいいの。


(そんなことより早く出かけないと間に合わないわよ)


 ありがとう。天使ちゃん。


「じゃあ、行って来ます」


 すでに父親は家を出ている。というか、あの人何時に家を出ているのだろう。朝見たことがない。そして、夜も見たことがない。母親も一緒だ。両親とは位置も擦れ違いだ。すれ違い通信ができればいいのにとか思うくらいだ。


 だが、心配なのか俺と妹にはGPS機能付きの腕時計をつけさせている。まあ、こんなの確認する暇なんてないのはわかっているが保険なんだろう。


 それで、安心してくれるのならありがたいものだ。でも、どちらかというと俺は両親につけさせたい。


 これがあればいつ帰ってくるのかがわかる。そう、二人とも夜も遅いし、どこで何をしているのかもわからない。まあ、晩御飯は基本俺が作るからいいけれどね。ちなみに、ちあきは料理が出来るが作ってくれることはない。


「なんでおにいちゃんに私の手料理を食べさせなきゃいけないのよ」


 といいながら俺の料理はちゃんと食べる。


「まあ、お兄ちゃんの数少ない利点だものね。家事ができるって」


 まあ、いいさ。今日うまくいったらちょっと晩御飯奮発しているからな。絶対に成功してみせる。


(って、意気込んでいるけれど、あっきーの目標は声かけるだけでしょ)


 それ、言わないでよ。


(ほら、電車来ているから、早く乗って)


 電車に乗ると緊張してきた。どうしよう、心臓がバクバクいってる。獏ってそういえば夢食べるんだったな。このバクバクもバクバク食べてくれないかな。


(って、何考えているの?ひょっとしたまだ事故の影響あるんじゃないの?)


 天使ちゃん。そんな冷たい声で突き放さないでよ。俺のちょっとした緊張のほぐし方なんだからさ。


(ごめん。よくわからないし、わかりたくもない)


 そして、天使ちゃんの声が聞こえなくなった。さみしいけれど、集中しなければいけない。声をかけるならやはりあそこだ。イベントが起きた交差点だろう。


 時計を見る。8時7分。いつもの時間。いつもの車輌。ドアが開く。そこには憧れの彼女が居た。いつもの距離。


 はやる気持ちを抑える。あの交差点で話しかけるのだ。


(ねえ)


 頭の中にあまいやさしい声が響く。天使ちゃんの声だ。俺は今試されているのか?


(いや、試してもないけれど)


 なんだ、これは試練なのか?


(試練でもないのだけれど、聞いてくれる?)


 こうテンションがあがっているところだけれど、俺はやっぱり天使ちゃんの声に弱い。耳が幸せなのだ。もう、何よ。天使ちゃん。今集中していたところなのよ。


(ちょっと聞きたいのだけれど、あの子が憧れの彼女でいいんだよね)


 ああ、そうだよ。かわいいだろう。めっちゃタイプなんだ。黒い髪の毛。ぱっつんな前髪。おとなしそうなあの子。ふいに笑うあの笑顔が最高じゃん。


(ふ~ん)


 なんで冷たい返しなの。俺何か変なこと言った?まあ、確かに天使ちゃんも俺的には最高なんだけれど、でも、この思いは長年温めてきたものなんだよ。


(一つだけ言っておくわ。あの子は辞めておいたほうがいいわ。後悔するわよ)


 後悔。なんで?


(あの子。思っているような子じゃないから。まあ、それでもいいなら止めないけれど、あっきーが傷つくだけだよ)


 ああ、あの恋をするのは戦場をつっぱしると同じってやつ。でも、あんなヘタレな俺を鍛えてくれたのは天使ちゃんじゃん。なんで、そんなこというのかな。ひょっとして妬いてくれた。


(違います。純粋に心配しているだけです。まあ、信じてくれないのなら仕方ないけれど)


 俺はどうしたらいいんだ。


(違う子を選べばいいよ)


 って、そこであっさり気持ちなんて変わらないよ。それに辞めておけって言われる理由もわからないし。


 でもいい。俺は傷ついてもいい。当たって砕けようじゃないか。砕け散るのは痛いのはわかる。今まで戦ってこずに逃げてばかりだったんだ。


 心配してくれてありがとう。確かに痛いってわかっていても実際に痛いのは違うかもしれない。けれど、変われた俺の記念日として砕け散ってくるよ。


(はぁ~もう知らないからね)


 心配してくれてありがとう。でも、俺が変われたのは天使ちゃんのおかげさ。だから、今回は記念ということで砕け散ってくるよ。見ていてね。


 俺は駅を降りて颯爽と歩く。でも、わかっている。絶対に俺はあの交差点で信号待ちになる。そう、そこで声をかけよう。告白しよう。そして砕け散ろう。


 でも、不思議とつらくない。だって、俺は気がついてきている。俺の心はぐらぐらと動いているからだ。この顔も見たことがない天使ちゃんに。


(だったら、告白しなきゃいいのに)


 って、おい。この独白に突っ込みいれるって天使ちゃんきついな。


「あ~お兄ちゃんだ」


 ん?この声はあの小学生の子だ。結構かわいい女の子だ。というか、なぜか子どもには好かれるんだよね。


(精神年齢が近いとか?)


 いや、天使ちゃん。俺だって傷つくんだよ。


(ごめんなさい)


 って、そんな真剣にへこみながら謝らなくていいからね。ってか、またあの小学生の女の子が信号を渡ろうとしている。そして、横には憧れの彼女。


「ねえ、あの子危なくない?」


 あれ?これデジャブですか?タイムリープしてんのか?だが、俺は髪型も変わっている。めがねもしていない。ってことは、これはこの前と違う。俺は大きな声を出した。


「動くなよ」


 手のひらを小学生の女の子に向けた。動きが止まった。信号が変わって走ってくる。


「お兄ちゃん。心配性だよ。この前助けてもらったんだから同じ事しないよ」


「ふ~。心配したんだからな。じゃあ、気をつけて学校行くんだぞ」


「は~い」


 俺は小学生の女の子に手をふっていた。って、おい。憧れの彼女に声をかけるんじゃなかったのかよ。俺何しているんだ。


「あの。この前助けた人ですか?」


「はい、そうです」


 って、振り向いたらそこに憧れの彼女が居た。ってか、俺声かけられている。イベント発生しているし。そっか。さっきのがイベント発生条件だったんだ。


「この前、赤信号なのを突っ切って助けるってかっこよかったです」


 なんだこれ。頬を赤らめて下なんて向いちゃっている。


「いや、つい体が動いて」


 まあ、イベント発生フラグだと思って突っ走ったんだけれどね。


「あの良かったら・・・」


 これはなんだ。これいけるんじゃないか。


「俺と良かったら、付き合ってください」


 先に言い切ってみた。俺は憧れの彼女を見る。目を大きく見開いている。


「いや、実は前からずっと好きでした。ずっと君を見ていました。毎日この交差点ですれ違って。えと、それで」


「はい」


「そう、君は知らないかもしれないけれど、俺って君のことがって。え?今なんて言ったの?」


「はいっていいました。私も気になっていました」


 なんだこの展開。まさかのOKが出るとか思っていなかったし。そう思っていたらいきなり激痛が走った。そう、憧れの彼女が頭から俺のおなかに突っ込んできたんだ。


「やった。私彼氏できたよ。しかも結構かっこいい彼氏。この人私のこと好きらしいの。ねえ、みんな聞いて。私杉山むつきにこんなかっこいい彼氏ができました」


 あれ?この子ってこんな子だっけ?


「じゃあ、携帯出して。え~と、設定はこれでOK。私の連絡先登録しておいたから。後アプリも。え~と、名前は関原あきらっていうのね。じゃあ、あきらんって呼ぶから。後、この携帯で誰か他の女とやり取りしたりなんかしたら」


 ものすごくにっこりかわいく笑いながらこう言われた。


「殺すからね」


 なんで、そこだけ低い声なんですか。というか、目も据わっていたし。確実にあなた人殺した経験あるんじゃないの?というか、物理的にはなくても精神的には経験あるでしょう。


(だから辞めておけばいいのにって言ったのに)


 天使ちゃんの声が天使過ぎたけれど、ぜんぜん救われなかった。


 わかっていたならもっとちゃんと言ってよ。


(聞かなかった癖に)


 今更だけど思った。俺は天使ちゃんの声にもっと従えばよかったと思った。もう、遅いけれど。

 


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