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変化

~変化~


 検査結果も良好。


 派手にはねられたわりに骨折はしていないみたいだ。ただ、打撲とか切り傷とかがひどい。なんか体が丈夫だったらしい。うん、俺を頑丈に産んでくれた両親に感謝だ。ありがとう。


それに、さらにうれしいこともあった。助けた子どもが親を連れてお礼まで言ってきてくれたんだ。


 なんかこれって、俺ヒーローっぽくない?実際、助けたのってフラグだと思っていたからだし。


 だから、この展開は期待してなかったと言えば嘘になるけれど、やっぱりうれしいね。


 もうね、俺ってかっこいいって思ったよ。でも、俺をはねた車は捕まっていないらしいけど。


 まあ、そのうち警察が捕まえるだろう。日本の警察は有能だ。無能なのはフィクションの中だけだ。詳しくは知らないけれどさ。


 それに、実際怪我も大したことないから、色んなことがどうでもいい。入院費は保険やら、さっきの助けた親からのお礼でなんとかなっているみたいだし。


 それに俺は病院にいたいわけじゃない。そう、ここにいても憧れの彼女はやってこない。


 そう、病院で発生するイベントに興味はないんだ。まあ、ここで何か新たな出会いがあるかもしれないが俺にとって一番はやっぱりあの憧れの彼女だ。


 いや、最近ちょっとだけぐらついている。俺の頭の中に直接語りかけてくる天使ちゃんだ。もう、あの声がたまらなくかわいい。


 あの声なんだったら多分顔もかわいいはずだ。でも、この天使ちゃんはどこに居たって話し合える。話し合えると言っても会話がいつできるのかわからない。


 でも、語りかけたらちゃんと相手してくれるんだ。


(当たり前でしょ。無視とか失礼だからできないから)


 ほらね。むちゃ性格がいい。こんな声でしかも性格がいいなんて絶対ヤバイ。でも、かなしいかな声しか知らない。だが、見えないから余計に色々想像できる。


(あんまり変な想像しないでよね。あなたの思考が私に直接流れてくるんだから)


 これが結構悲しいところだ。変なことを考えると怒られる。というか、すでに何回か「変体」とか「最低」とか言われてしまった。


 でも、仕方ないじゃないか。健全な高校男子といえばそう言うものなんだからさ。ただ、思考がリンクしているということもあるから大変なのだ。


 この悩みはどこまで言っても続くのだろう。後は、俺が他人の前でこの天使ちゃんに話しかけなかったらそれでいい。多分話したら相当に変な人になってしまう。


 そういう意味では病院はいいのかもしれないが、誰かと話しているなんて知られたら逆に退院させてもらえなくなる。


 それこそどこか頭でも打っておかしくなったんじゃないかと思われてしまう。だから、医者に天使ちゃんのことも話さなかったし、ちょっと痛かったけれど大丈夫ですと言った。


 んで、無事退院が決定。


 でも、知ったんだ。ちょっと入院していただけなのに、歩くのがつらくなるんだ。風邪引いたときだってこうならないのに不思議だなって思った。


(事故のときに体がこわばったからよ。無理しないでね)


 もう、天使ちゃんが天使過ぎる。もうね、こんな声で心配なんてされちゃったら天に召されてしまいそう。


 というか、そうしたら声だけじゃなく天使ちゃんの姿も見られるのかもしれない。いいかもしれない。いや、ダメだろう。


「関原さん、関原あきらさん」


 ああ、どこかで名前が呼ばれている。ああ、そうか。退院するから手続きをしていたんだ。両親からは「もう大丈夫でしょう」って言われたから退院は一人だ。うちは両親共働きだから仕方がない。


 というか、事故があったあの日に両親が共に来てくれたことにマジびっくりした。いつも仕事が忙しいが口癖の二人なのに。


 まあ、おかげで俺は家事全般得意になれたんだけれどな。家事スキルはマスタークラスだぜ。ってか、頑丈で家事マスターって結構かっこよくないか?


(って、それって自慢していいことなのかな?)


 こう、控えめな突っ込みもまた天使ちゃん最高だぜ。


(いつも面白いよね。発想とか。それと、え~と、関原さんって呼べばいいのかな?)


 そこはあっきーで。俺もなんて呼べばいい。いや、天使ちゃんでいいか。それとも名前あるの?


(あるはずなんだけれど、思い出せないんだよね。ごめんね)


 そんなひたむきな天使ちゃんもかわいいから許す。というか、この天使ちゃんを攻めるやつがいたら俺が戦う。痛いのはいやだけれど戦ってみせる。


(え~と、ありがとうって言ったほうがいいのかな?)


 そこはお任せします。


 ってか、まあ、こんな感じで幸せな感じで話していたら家についた。そういえば、医者からはリハビリとして歩行練習を言われていたんだ。


 もうすぐ夕方か。とりあえず、学校近くまで行ってみるかな。


(大丈夫?無理しないでね)


 大丈夫、大丈夫。それに、この時間だったらひょっとしたら俺の憧れの彼女にばったり会えるかもしれないしね。


 そこで会って「あの時のヒーローだ」と言って出会いイベントが起きるはずだ。そういうものだろう。折角フラグが立ったんだから。


 俺は電車に乗り込んだ。いつもなら立っているのだが、やっぱり足がつらいのかぷるぷる震えているのでつい座ってしまった。


 なんだこの生まれたての小鹿みたいなのは。俺って小鹿になったのか。


(残念だけれど、なってないよ)


 って、そこつっこみいらないからね。まあ、全部拾ってくれる天使ちゃんがうれしいんだけれど。


 というか、今まで思考につっこみなんてなかったからかなり楽しい。これなら人生バラ色なんじゃないの。


 って、なんでバラって感じは難しいんだろう。書こうとすると醤油を思い出してしまう。


(似ている?薔薇って漢字で書ける必要はそうそうないと思うんだけれど)


 というか、俺の頭に薔薇の漢字が思い浮かんだ。ってか、これすごくない?天使ちゃんが思ったことが俺にも伝わる。って、ことはテストとか100点取り放題じゃない。


(そんな協力はしません。テストは自力でしなきゃダメでしょ)


 正論すぎる。でも、それが天使ちゃんぽい。さすがだ。って、天使ちゃんと話していたらにやにやしてしまう。


 というか、向かいの人が変な目で俺を見ている。だが、気にしない。俺は幸せだからだ。この俺の幸せはわからないだろう。


(ごめん。私にもよくわからない)


 え~。ここにつっこみくるの。いいんだ。俺が幸せなら。ってか、気が付いたら駅についてしまった。天使ちゃんにも見せてあげよう。


 俺の憧れの彼女を。って、会えるかは運なんだけれどね。でも、大丈夫。この1年間の俺の統計からすると会えるはずだから。


(え~と、なんて言えばいいのかな?)


 そこはスルーでお願いします。



 俺は駅を出ていつもの横断歩道付近に立った。目の前は赤信号。そして、なんという運命。目の前に憧れの彼女がいる。


 これイベント発生だよね。絶対発生するよね。そう、思っていたらそのまま彼女は友達と話しながら俺の横を通りすぎていった。

 

 なんでだ。なんでイベントが発生しない。何が足りないって言うんだ。何のフラグが足りない?


(普通に話しかけたらいいんじゃないのかな?)


 それが出来たら苦労しないんだって。俺ってこんなんだから勇気がないし。


(じゃあ、こんなんじゃなくなったらいいって事?私思ったんだけれど、あっきーって素材はいいと思うんだ。ねえ、私の言うこと聞いてくれる?)


 天使ちゃんのことならなんだって聞いちゃうよ。もう、火の中でも水の中でもとはいかないけれど、頑張っちゃうね。


(ではね、まず髪型を変えに行こうよ)


 はい?


(今前髪が長くて顔が見えにくいの。根暗に見えるし)


 どうせ、俺は根暗だよ。ネイティブネガティブだしね。


(何その単語。聞いたことないんだけれど、でも、お願い。変わろうとしてよ。大丈夫。あっきーなら変われるよ)


 今まで考えたこともなかった。俺は言われるがままにまず髪を切りに行くことを決めた。


(そうね、あの向かいの店とかいいかも)


 そう言って天使ちゃんが示したと思われるのは美容院だ。しかも、かなりおしゃれな感じだ。こんな敷居の高いところ入れるわけないじゃないか。


(大丈夫、一人じゃないから。行こうよ)


 もう、なんでこんなに甘えた声を出すんだ。つい、でれてしまうじゃないか。声に負ける俺。まあ、結局勝てないんだよ。


 そういえば、「かわいいは正義」ってどこかで聞いたな。それ、マジで本当だと思う。気がついたら美容院に足を踏み入れてしまった。


「いらっしゃいませ」


 目の前にいるのは、ちょい悪親父みたいなあごひげを蓄えた男性だ。しかも俺と違って日焼けをしている。男性なのにも関わらずこう男性の色香を感じる。ごくり。


(ごくり)


 ん?なんか似たような音が聞こえたけれど、気のせいかな。


(うん、気のせいよ。気のせい。さあ、早く目の前のひげの人に近づくの。できればちょっとテレながら、そして小声で。顔を近づけて)


 いや、大きな声なんて出せそうにないよ。しかも緊張してマナーモードの携帯みたいにぶるぶる震えている。


「そんなに緊張しなくていいよ」


 そういって肩を叩かれた。背中をさすってもらっている。


(そこで相手に寄りかかってみる)


 え?それって必要なのか。わからないけれど、ちょっとだけ寄りかかってみた。


「緊張していたんだね。でも、頑張って自分を変えたくもある。いいよ。僕が君を変えてあげよう」


 なんかうまくいったみたい。さすが天使ちゃんだ。これを見越していたのか。ありがとう。


(こちらこそ、ありがとう)


 なんで、ここで感謝の言葉なんだ。でも、その声がすごくいい声だった。


「で、君はどう変わりたいんだい?」


 いつの間にか座っていて、目の前にはいろんなモデルの写真がある。といってもなりたい自分なんて想像できていない。


(あ、この雑誌の右上。これなんかいいと思う)


 天使ちゃんがいうのだから、それがいいのだろう。


「このモデルのようにしてもらえますか?」


 そういいながら髪は短く、すこしウェーブがかかって、でも清潔感がある。なんだか色っぽさがあるモデルだった。こんな感じに俺がなれるのか?そう思っていたらこう言われた。


「君、わかっているね。自分のことを。この髪型なら君が映えると思うよ。うん、いいね」


(うん、うん。いい感じ)


 俺は二人に言われてその気になっていた。人生初めてのパーマというものを経験した。しかも色んなことを話しかけられる。これって、普通なのか?


(まあ、そういう人もいるよ。気にしない)


 もう、天使ちゃんにそう言われたらなんでもできそうになってきた。やっぱりこれからは俺のターンなんだ。天使ちゃんありがとう。


(なんで感謝されたのかはわからないけれど、ありがとうね)


 いいんだよ。わからなくたって。


 一時間以上もかかった。でも、鏡の前には見たことない自分が居た。こんな感じになるのか。自分の顔をまじまじと見てしまった。


「おお、変身したね。好きな人にでも告白するのかい?」


 そう言われた。だが、まだ勇気がもてない。でも、かなり変わった感じがする。告白する。誰が?俺が?できるわけないじゃないか。髪型がかわったらいきなり勇者になれるなんてことはない。ダメだ。


(まだよ。次はそのめがねを変えるの。眼科に行きましょう)


 なんで、めがねを変えるのに眼科なんだ?っていうか、俺が逃げようとしても天使ちゃんはいつも応援してくれる。ひょっとして天使ちゃん俺のこと好きなの?


(はいはい。好きですよ。だからまず美容院を出ましょう。ちゃんとお礼を言うのよ)


 お礼。なんで?


(変えてくれたお礼よ。感謝の気持ちは大切でしょ)


 そっか。俺は髪を切ってくれたちょいわる親父に向かってこう言った。


「あ、ありがとうございました。変えてくれて」


 やっぱりまだちょっと照れる。顔が赤くなる。


(もう、最高。あっきー最高だよ)


 なんか天使ちゃんのテンションがあがっている。よくわからないけれど、ちょい悪親父も笑ってくれている。よかった。


(じゃあ、次は眼科よ。いきつけはあるの?)


 いや、ないけれど。なんでめがねを変えるのに眼科に行くんだ?メガネ屋じゃないの?


(コンタクトに変えるためよ。そのやぼったいめがねはダメ。コンタクトに変えたら絶対にかわるから。私を信じて)


 そういわれて、俺は何度か行ったことがある眼科に行くことを決めた。


 街を歩く。髪型が変わったけれど、おかしくないだろうか。周りは俺のこと見て似合っていないと言って笑わないだろうか。


(大丈夫だよ。似合っている。私が言うだけじゃ不安?)


 そんなことないよ。そんな悲しい声出さないで。天使ちゃんの悲しい声なんて聞きたくない。やっぱり明るい声が一番だ。


(それに誰も笑ってなんかないよ。というか、街を歩いている人は他人になんてそこまで興味持ってないから)


 そっか。俺に興味ないか。


(って、当たり前でしょ。というか、街にいる人がみんなあっきーに興味を持っていると思う方が自意識過剰だよ。あっきーも街を歩いている人を一人ひとりそんなに注意深く見ているの?)


 確かに。流石天使ちゃんだ。なんだかちょっとだけ心が軽くなった。んで、いつも行っている眼科について、コンタクトにしたいことを伝えた。


 ここの先生は40代くらいの優しい顔をした男性だ。メガネの先生だ。メガネの先生が言う。


「コンタクトにするんだね。慣れるまで大変だけど。一度つけてあげるね」


 そう言ってメガネ先生が俺の目にコンタクトをいれる。痛い。


「大丈夫。ちょっと怖かったね。では、次はそのコンタクトを取ってみるからね」


 うう。なんでこんなにやさしくしてくれるんだ。涙が出る。


(いいよ。うん。いい感じ。もっと。もっとよ)


 なんか天使ちゃんのテンションが上がっている。だが、うっすらと目を開けるとメガネ先生の顔が近くにある。涙が出る。


「では、自分でしてみようか。出来る?」


「はい、頑張ります」


 天使ちゃんが俺を応援してくれるんだ。俺も頑張らなきゃ。しばらくして俺はようやくコンタクトに慣れた。大丈夫、前回に学習した。


「ありがとうございます」


 ほら、天使ちゃんに言われる前にちゃんと感謝も言える。どうだ。すごいだろう、


(うん、よくできました。えらい。えらい)


 ちゃんと天使ちゃんも褒めてくれる。それに鏡で自分をみてびっくりした。結構かっこいいのだ。でも、これ俺ってわかってもらえるのかな。それがちょっと不安だ。


 眼科を出て街を歩く。


「あ、お兄ちゃんだ」


 そう言ってきたのは俺が助けたあの小学生だ。結構かわいい女の子なのだ。そして、その横にお母さんもいる。


「どうも」


 そう言うとお母さんは少し目を大きくして俺を見た。


「あら、あの時の人だったんですね。結構イメージ変わりましたね」


「ええ、ちょっと気分を変えてみようかと」


 なんだかそう言いながら照れてしまった。


(胸を張る。下を向かないの)


 天使ちゃんは容赦ないな。でも、わかったよ。その思い受け止めるから。俺は俯きそうになっていたけれど顔を上げた。だが、すぐにしたから手を引かれた。


「ねえ、ねえ」


 下を向くのではなくしゃがんでみた。女の子が言う。


「ありがとう」


 そう言うとお母さんの後ろにすぐ隠れた。かわいかった。


「それでは」


 そう言って俺は去った。なんだかちょっとだけ変われた気になった。


(変われた気じゃなくて、変わったの。容姿が変わったら性格も変わっていくの。ほら、今の自分を見てよ)


 そう言われて俺は周りを見る。街には路面店があり、その反射で自分がうっすらと写っている。そこにはウェーブのかかった髪に少し大きな目をした男性が立っていた。そう、変身した俺だ。いまだ見慣れない。


(それがあっきーよ。かっこいいよ)


 俺、かっこいいのか。行けるかな。じゃあ、明日は勝負だ。憧れの彼女に話しかけるぞ。


(そこは告白って言って欲しかったな。でも、変わってくれてよかった)


 そう、俺には天使ちゃんが付いている。これ見た目も変わったし。これってよく考えたら付き合えるフラグじゃないのか?


 俺はまだ知らなかったんだ。知らないことが多すぎたんだ。




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