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~プロローグ~

~プロローグ~


 今日も待ちに待った一日がはじまる。


 もう、どれだけ朝が来るのを待ったことか。朝が待ち遠しい。外は晴れ。気持ちいい。もう完璧だ。


 俺は毎朝の通学時間だけが楽しみだ。高校も二年生になると自分の置かれている立場もわかってくる。まず、男子高校に進学した学生というものは悲惨だ。出会いがない。いや、中にはばっちりどこかで出会いをつくって彼女を作っているやつもいる。だが、一年を過ぎたあたりで俺は気がついたんだ。


 俺にはそういうイベントが起きてこない。ほら、普通さ、ゲームとかだと何か一つのことをしていたら、イベントが起きるじゃないか。イベント発生フラグというやつがさ。だが、この俺には何もおきてくれなかったんだ。


 気の利いた親友が女子高生との合コンを設定するとかもないし、いつも頑張っているねとか言ってくる女の子の出会いもない。そこで気がついたんだ。これは自分で何かをしないといけないって。だが、どうやって女の子に声をかけていいのかわからない。


 でも、いいのだ。ある本で知ったことがある。恋愛というものは戦場を駆け巡ることと同じだと。告白をしては振られ、傷を負い、それでもまだ立ち上がり突進をする。そうして傷ついたものだけが彼女をゲットできるらしい。


 それって、難易度高くないか?


 だから俺は早々に諦めたんだ。諦めたはずだったんだ。けれど、俺は気がついた。気づかされてしまった。毎朝学校に行く途中に天使がいることに。


 ふわっとした黒髪が肩までで、前髪はぱっつん。雰囲気もふわふわしている子がいたんだ。しかも、すぐ近くの女子高。駅から道を歩き、途中の交差点までは一緒なんだ。まあ、この俺に話しかける勇気なんてないがな。


 だけど、いつか話しかけるイベントがおきるはず。どこかの曲がり角でぶつかってそこからはじまるんだ。だから、そのイベントがいつ起きてもいいように朝早く起きて練習をしている。練習モードではすでにレベルMAXの自信はある。


 だが、なかなかそんなイベントが起きてくれない。おかしい。これだけ練習モードをクリアしているのに。今日こそはイベントが起きるだろう。そう思って俺は制服を着た。


 紺のブレザーに灰色のズボン。赤いネクタイに白いシャツ。うん、地味だ。というか、モブキャラみたいな俺だが、これは俺が主人公の物語のはず。だから、毎朝イベント発生待ちなんだ。


「行って来ます」


 そう言って家を出る。時計を見る。いつもと同じ時間。7時45分。時間を確認して電車に乗る。8時7分。彼女が乗ってくる。その場所も確認済みだ。いつでも話しかけてもらえるよう彼女の視界に入るよう気をつけている。


 実はこの行動は一年以上続けている。横にいる友達の顔を覚えた。それに周りの登場人物も覚えて。大体時間に、同じ電車に乗って歩くのだ。この連続する中でイレギュラーが起きたらそれはイベントなんだ。


 だから横にいる友達の顔も似顔絵が描けるレベルだ。まあ、俺の憧れの彼女には及ばないがかわいい感じだ。


 ちょっと髪が茶髪で顔がうっすい感じなんだ。化粧でごまかしているのがわかる。二人して何かを話している。聞こえないが、これ以上近づく勇気がない。ヘタレ上等だ。俺は戦士じゃない。戦場を駆け巡る勇気はない。だから傷つかない場所で見守るって決めたんだ。この距離が心地いい。


 駅に着く。先に降りるのは彼女たちだ。だが、俺は歩くのが早い。自慢じゃないが早いんだ。だから、途中で抜かしてしまう。


 だが、それでいい。


 というか、それが狙いだ。


 彼女を視界に捕られるのはすでに電車の中でやった。次は視界に入ることだ。じゃないと話しかけてもらえない。


 駅を降りて歩き出す。だが、俺は目の前の信号に間に合わない。これも計算どおりだ。ここで彼女たちが俺に追いついて来る。


 完璧。


 そう、思っていた。信号が変わるまですぐ横に彼女がいる。笑っている顔もかわいい。顔は正面を向きながら注意は右横にいる彼女だ。だが、その彼女がこう言った。


「ねえ、あの子危なくない?」


 そう言われて正面に注意が向く。小学生、しかも低学年の女の子が一人でいる。なんで集団登校していないんだ。


 しかも、赤信号を渡ろうとしている。おいおい、そりゃ無理だろう。ちょっと車が途切れた。その瞬間にその子が飛び出した。だが、車がすごい勢いで走ってくる。


「どうしよう」


 彼女がそう言っている。これがイベントなのか。これがイベントで俺が主人公なら俺は助かるはずだ。


 足は震えていたが、俺は猛ダッシュした。待ちに待ったイレギュラー。イベント発生だ。小学生を小脇に抱えて転がり込む。


 いや、むちゃくちゃ痛い。


 どうだ、俺かっこよかっただろう。これで彼女と知り合えるフラグがたったはずだ。そう思ったけれど、結構ぐるぐるまわったのか気持ち悪いだけだ。


 体も痛い。勢いでて転がったからどこか怪我したのかもしれない。立ち上がろうとしたら目の前に違う車がきていた。


 そうだよな。今、赤信号だった。だが、もう足が動かない。とりあえず小学生を歩道側に押し出した。


 大丈夫。死ぬことはない。


 だって俺、主人公だろう。倒れこむように俺はアスファルトに向かった。車と接触。


 空を飛ぶ。


 おい、これ大丈夫なのか?


 でも、なんだかそこまで痛くない。空が見える。ああ、今日は天気いいんだった。そういや、朝のニュースで流れていたっけ?何だったか。


 あ、そうだ。地元の銀行がなんか合併するとかいう報道があったな。そう言えば、この近くだって思っていたんだ。


 そう、そのニュースで俺の憧れの子が映っていたんだ。録画してればよかったと思ったのだ。後悔したんだ。


 って、俺何を思っているんだ。なんか変なことばかり思い出す。あれ?これまずくないか。これが、走馬灯ってやつなのか。


 それに徐々に視界がかすんできた。世界もまわっている。周りの音もうまく聞こえない。


 おいおい、これ死亡フラグとかなかったよな。俺そんなフラグ立ててないぞ。ちょっと運命様空気読めよ。


 だが、体は動かない。世界もまっくらだ。


 だが、誰かが俺の体を支えてくれている。彼女か?これは彼女のぬくもりか?どこか痛いけれど彼女に抱きしめてもらえるのなら戦士になって傷つくのもいいのかもしれない。そう、思った。


「もっと、もっと、もっとよ」


 なんだ、この変な声?頭に響いてくる。でも、ものすごくきれいな声だ。


 意味がわからないが耳が幸せだと思った。温かい。なんだか包まれているみたいだ。誰に?この声の相手か?だが、目が開かない。どう頑張ったって目が開かないんだ。



「ねえ、大丈夫?大丈夫?」


 やさしい声が聞こえる。ああ、この声いいな。声優でいてもおかしくないくらい澄んだ声だ。


 そしてやさしくてかわいい声。声だけなのにひきつけられる。なんだこれ。ここ天国か?けれど体が動かない。目も開かない。


「ぐへへへへ」


 ん?なんだ。今の声。かわいい声の変なうめき声が聞こえた。気のせいじゃないよな。


 しかもじゅるって音も聞こえる。なんだか怖い。これ、起きないとまずいヤツなんじゃないか。集中しろ。


 起きるんだ。できるだろう。


 頭の中で松岡修造が力いっぱい応援してくれている。お前、俺主人公だろう。できる、できる、できる。


 いや、わかったからもう起きるから。そう、気がついたらゆっくりだが目が開いてきた。


「目が開きました!」


 見知らぬ天井。ここどこだ。しかも聞こえた声が違う。若い声だけれど、張りがあってなんというか普通なんだ。さっきの声はまるで天使のような声だったのに。


「君、大丈夫かい」


 近くにいた男性にそう言われた。若い男性。私服を着ている。誰だこの人?


「ええ、大丈夫です」


 つい、そう言ったけれど、体はぜんぜん動いてくれそうにない。なんか色んなところが痛いんだ。


(その人が介抱してくれたのよ。感謝しなさい)


 頭の中に声が響く。あの天使の声だ。周りを見るが今ここにはこの男性と女性しかいない。女性は服装から看護師ということだけはわかる。ということはここ病院か。


「あ、ありがとうございます。助けてもらったみたいで」


 俺はその男性に礼を言った。天使の声には従うのがいいと思ったからだ。んでも、なんで声が聞こえるのか?


 これが俺の新しいスキルか?天使の声にしたがって動くと選択を間違わない。それって最強なんじゃないのか?俺のターンが来たみたいだな。チートスキルだな。最高じゃないか。


(来てないわよ。というか、そんなのじゃないからね)


 からねってツンデレかよ。そう言いながら俺のこと導いてくれるんですよね。というか、導かなくたっていいですから。その声で話しかけてくれるだけで俺十分幸せです。


「いや、僕は礼を言われるような立場じゃないよ。あの場所に居たのに僕は足がすくんで動けなかった。君はすごいよ」


 目の前の男性がそういって笑いかける。この人は一体何者なんだろう。


「あなたは?」


「ああ、僕はあの場所に居合わせただけなんだ。ただ、君を介抱していたらそのまま救急車に乗ることになってね。君の高校には連絡しておいたから。後でご両親も来てくれるみたいだよ」


「ありがとうございます」


 いや、違うだろうよ。ここはあの憧れの彼女が同乗して横に居るって話しじゃないのか?俺それを期待して頑張ったのに。


(憧れの彼女ってどの子?)


 なになに?天使ちゃん。気になっちゃう感じ。もう、俺マジ幸せものだな。憧れの彼女は俺が通学時にいつも出会っている子なんだ。事故にあった時も俺の横に居たはずだよ。


(そうだったかな?覚えてないや。でも、君にはいい縁がめぐってくると思うよ)


 よっしゃー。天使ちゃんのお墨付き出た。これで絶対俺幸せになれるな。


 そう、俺はまだこの声がすることに違和感なんてなかったんだ。落ち着いて考えたらかなり変な状況なのにも関わらず。


 でも、細かいことなんてどうだっていいだろう。だって、天使のような声がずっと聞けるんだからさ。



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