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歯が痛い。

 困った、歯が痛い。


 普通の人なら少しでも痛いと思った時点で、歯医者さんに行くか予約を入れるかのどちらかをすると思うんだけど……。

 残念なことに、あたしは筋金入りの引きこもりだ。


 ただちょっとお外に行って帰ってくるだけで、熱を出して寝込むタイプの引きこもりだ。


 しかし、痛い。

 これ以上は我慢したくない。


 だが電波時計の針は無情にも午前2時を示していて……。

 原因が虫歯では、救急車を呼んでみたところで、きっと何もしてもらえないだろう。


 目を閉じて、この痛みをいつから耐えていただろうかと考えてみる。


 前の自動車の免許更新のときには既に何本かが痛かった気がするから、7年かそこらだろうか?

 いやでも小6のときに小さな虫歯がいくつかあると言われた記憶があるから、もしかして30年か?


 歯の痛みなんて我慢したところで得することなんて1つもないのに、よくもここまで我慢できたものだなと、我がことながら感心する。


 だったら、もう少しくらい我慢できるだろうか?

 と思ってみるが、もう限界だ。


 もはや息を吸うだけで痛いというか、息を止めても痛いんだが。


 自殺願望は常にほぼ0%のあたしだが、あと1か月も我慢し続ければ痛みに耐えかねて自殺するかもしれない、というレベルで痛いんだが。

 もうどの歯が痛いのかも分からない勢いで全部の歯が痛い……というか、もはやどの歯よりも顎の骨とか鼓膜のほうが痛いんだが。


 歯が痛い、顎が痛い、耳が痛い、頭が痛い、喉が痛い、膝が痛い……。

 虫歯が原因なのに、もはや口の中で痛みが納まっていないんだが。


 音が痛い、風が痛い、光が痛い、振動が痛い……。

 もう何も食べたくないし、飲みたくないし、トイレにも行きたくない勢いで、あちこち痛いんだが。


 ちょっと前までは歯を磨けば痛みがかなりマシになっていたけど、それももう無理。


 ああ、歯医者さんがいなかったころに生きていた人たちは、この痛みをどうやって乗り越えていたんだ。

 誰か教えてくださいって感じなんだが。


 とりあえず冷水を口に含めば痛みが一時的に耐えられる程度にまでしずまるんだが、右奥は。

 代わりに左奥が逆に発狂しそうなくらいに痛くなる。


 とりあえず温水を口に含めば痛みが一時的に耐えられる程度にまで鎮まるんだが、左奥は。

 代わりに右奥が逆に発狂しそうなくらいに痛くなる。


 ……あたしは一体、どうすればいいんだ。


 痛み止めの薬なんて、もうとっくに効きやしない。

 ここはもう自分でやすりか紙やすりであちこち削るしかないのかと思ってみるけど、それをやったら後悔する予感しかしない。


 ここはもう色々と諦めて、観念して、歯医者さんに行くべきだろうか?


 ああでも、怖い怖い怖い怖い怖い……。

 怖くて怖くて涙が止まらない。


 いやでも、お外は怖いけれども、歯医者さんも怖いけれども、虫歯が原因で死ぬよりはきっと怖くないはずだ。

 歯医者さんに行って帰ってくるまでに交通事故その他もろもろで死ぬ確率よりも、虫歯を放置して死ぬ確率の方がきっとずっと高いはずだ。


 ──よっぽどひどいやぶ医者にでも当たらない限りは。


「よし、行こう」

 とあたしは両手で握り拳を作ってみる。


 行きたくない、行きたくないけど、でも、行こう。

 行きたくないけど、行きたくないけど、けど、これ以上痛いのが続くのはもっと嫌だった。


 その為にまずやるべきことは……親へのお願いからだな。


「歯が痛いので、治療費を出してください」

「歯医者さんに行きたいのでお金を下さい」


 ……。


 言えるかな?



 ──あたしがとある歯科医院のドアを開けたのは、それから約一週間後のことだった。

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