変わるもの変わらぬもの
夕方。
「たまにはデートでもするか」
オレは妻を誘って散歩に出かけた。
なんのことはない。ふたりして、家の近所を歩いてまわるだけのことである。
ぶらぶらと歩き、帰りに児童公園に立ち寄った。
妻が見まわして言う。
「公園って、案外と狭いのね」
「そういや、たしかに狭いな」
「見て、ジャングルジムもあんなに低いわ。昔はずいぶん高くて見えて、てっぺんまで登るのがこわかったものよ。小さくなるのね、年をとると……」
「そうだよなあ」
ブランコもすべり台も、みんな昔と変わらないはずなのに、大人になるとそれらが小さくなって見えるようである。
「わあ、きれい!」
妻が夕空を見て目を細める。
太陽が山の端に落ちながら、たなびく雲を淡い紅色に染めていた。
妻がシーソーの片方に腰をおろし、いつになくロマンチックなことを言う。
「夕日は、昔とちっとも変わらないわね」
「ああ」
年を重ねると……。
変わるもの、変わらないものがある。ただ美しいものは、いつまでも変わることはないのだ。
オレもシーソーの一方に座った。
シーソーが浮いて平行になる。
それから……。
妻の側が下がって地面に着いた。
オレは斜めに浮き上がった状態で、なんとも座り心地が悪い。
「帰ろうか」
オレは静かにシーソーから降りた。
「うん」
変わりはてたものが、お相撲さんのごとき立派な尻を上げた。
黒森 冬炎 様 作成