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チュウゴク①

ごきげんよう、フリーライターのジョン・アルベルトだ。

今日は世界でも移植手術が盛んであるチュウゴク(※1)の取材にお付き合いいただこう。


チュウゴクはその人口の多さから様々な人材を排出し各業界に貢献している一方で黒いうわさが絶えないというフリーライターたちにとっては興味の尽きない国である。

曰く職にあぶれた人間を人体実験の駒にしているだとか反政府的思考を持つ者がバラバラになって見つかっただとかそんなゴシップ記事がそこかしこに転がっている。

確かな情報を確かな目線で確かにお送りすることを信条としてる私はそんなゴシップには流されずしっかりとネタを掴むためこうして現地に入っている。


さて私は現地スタッフと共にチュウゴクの首都であるペキン(※2)にやってきている。現在はペキン中央病院に行く前にチュウカ料理(※3)に舌鼓を打っているところだ。


「いやぁリーさん、このマーボードーフ(※4)というのはピリッと辛くて大変おいしいですよ」

「アイヤー(※5)、ジョンさんそれは当然アル(※6)。この店のマーボードーフは隠し味を使ってるアル。どんどん食べるヨロシ」


今日の現地スタッフの方は大変当たりだったようだ。私は経験にないが現地スタッフに騙されて身ぐるみ剥がれたとか裏路地に連れ込まれて帰ってこないとか帰ってきたけどお尻を抑えていたとかそんな事件がままあるらしい。

今回案内してもらったチュウカ料理店は食事だけでなく雰囲気もよく私としては大満足である。店内に流れる雅なBGMやそれに合わせて店の奥から響くスパンスパンという音も大変優雅だ。優雅だぞ。

余談だが国連の推し進める移民政策で人々は色々な国を行き来するようになったがどの国も人口は減るが増えることはないということはニッポンでの手記でお伝えしたと思う。そしてそれとは全く関係がない話だがチュウゴクの入国と出国の比率は100:1くらいらしい。


「それにしてもジョンさんの手は素晴らしい手アル。流石フリーライターアルね。」

「ありがとうございます。これでも長年ライターを続けていましてね。記事を書き続けたこの手とネタを探しに行く足は自慢なんですよ」

「アイヤー、やはりそうアルか。ジョンさんは気づいていないかもしれないアルが道行くチュウゴク人は皆ジョンさんの手をうらやましそうに見てたアル。それだけジョンさんの体は魅力的アル」

「ハハハ、なんだかちょっと身の危険を感じるようなことを言わないでくださいよ」


少し周囲を見回してみると確かにこちらをちらちらと見ているチュウゴク人が何人かいることが確認できた。なるほど美人の気持が少しだけわかった気がする。そっちの気はないがね。

談笑しながら食事を終え大満足で会計を済まそうとするとリーさんが支払ってくれるという。有り難く好意を受け取っておこう。

会計を待つ間周囲からは「いいなぁ」「いい腕だなぁ」という声がひそひそと聞こえてきた。アイドルになった気分だ。自分の体をほめられて悪い気はしない。今度取材など関係なしにチュウゴクに観光しにきたくなってくるな。


「お待たせしたアル」


会計を済ませたリーさんがやってきたのでともに店を出る。その間際にも私の体を見てくる人は絶えない。


「欲しいなぁ、あの腕」


やはり観光はやめておこう。


それから車で数十分移動するとペキン中央病院に到着した。最新の移植医療のデモンストレーションを見せてもらえるとのことで期待感はうなぎのぼりだ。


「こちらへどうぞアル」


医師のカダ氏に案内されて手術室を一望できる部屋へ通される。近くのモニタには術野が移されておりなるほどこれはわかりやすい。


「それではデモンストレーションを始めるアル」


カダ氏が宣言すると患者が運ばれてきた。ただし、運ばれてきた人間は四肢がなくダルマであった。


「ミスターカダ、今回見せていただけるのはは四肢の移植ですか?」

「アイヤ、最近は四肢の移植が民間でも流行してるアル」

「りゅ、流行? 四肢の移植がですか?」

「アイヤ、いい腕を持ってきたから付け替えてくれという患者さんは多いアル」


チュウゴクの医療技術は既にSFのレベルまで進化していたというのか。人工の腕や足を作り接合する技術力の高さに舌を巻かざるを得まい。


「イヤダ……イヤダ……イタイノハイヤダ……」


何事かうわごとのように患者がつぶやいている。手術前というのは恐怖心が増大するものだろう。麻酔が効くまでは患者もかなり恐ろしいはずだ。

続いてガラガラという音とともに台車が運ばれてきた。その上に乗っているのは移植用の腕だ。


「腕の根元から血が出ていますが……良いのですか?」

「アイヤ、あれだけたくさん血が出てるのは新鮮な証拠アル。普段は冷凍しておいたのを解凍するから質が悪いアル。こんな新鮮な腕で手術が見れるアナタはとってもお得」


そいつはすごい! 今ならもう片方の腕と足もつけて大変リーズナブル!

どこで準備したんだいそいつは? とは聞かなかった。聞くなと記者のカンが告げている。

そして手術の準備が整ったらしくスタッフ達が定位置についた。


「それでは手術を開始するアル。手術に合わせてワタシが解説するアル。まず初めに患者の「アアアアアアアアアアアアアアアアイタイイタイイタイイタイイタイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤメテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――」


患者の金切声で解説は全く聞こえなかった。

モニターで様子を見るとスタッフ達が患者を押さえつけている間、接合部を何やら得体のしれない器具で腕を溶接するようにくっつけているのが見えた。

流石にカダ氏もこの叫喚は堪えたのかモニターの音声を切った。


「麻酔は使われないのですか?」

「神経がマヒした状態だとくっつけた時に感覚のズレが生じるという説があるアル。だから麻酔は使わんアル」


それから2時間ほどで両手足すべての移植が成功した。その間ずっと患者は悲鳴を上げ続けていたが。


「これですべての術式は終了アル。お疲れさまアル」


患者は医者の命令で無理やり立ち上がらされると体の動きが全く不自然でないことをアピールするため手術室のど真ん中でラジオ体操を始めた。

軽快な動きとは裏腹に歪んだまま全く変化のない顔が大変不気味だ。


なんとおぞましい治療方法だろうか。私はこの事実を必ず本国に伝えなければならない。音声メモはしっかりとった。早くこの場を離れなければ。


「本日はありがとうございました。次の取材が詰まっていますので私はこの辺で……」

「アイヤ、そういえば今回のデモンストレーションで手足のストックが減ってしまったアル」


退出しようとする私の肩を掴んで引き留めるカダ氏。

振り返るとカダ氏は満面の笑みで私の腕を見ていた。。


「その腕、欲しいなぁ」

(※1)チュウゴク:ShugOrkが訛ったもの。発音の似ている中国とは別の国である。

(※2)ペキン:Perkingが訛ったもの。発音の似ている北京とは別の都市である。

(※3)チュウカ料理:注薬物添加料理の略である。表向きはサプリメントが加えられた料理ということになっている。発音の似ている中華料理とは別の料理である。

(※4)マーボードーフ:マンボウ堂府中の略である。代表的なチュウカ料理で発音の似ている麻婆豆腐とは別の料理である。

(※5)アイヤ:「ああいや」の訛りである。

(※6)アル:「である」の訛りである。

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