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一話 出会い

この作品は作者がウィッチャー3をプレイし、こんな世界の話を作りたいと思い出来たものです。だからこそウィッチャー3要素が少し含まれている節があります。気にする方はブラウザバックをお願いします。

ちなみにストーリーは一切関係ありません

 ザクリという肉を切り裂く生々しい音と共に首が宙を舞う。頭部を失った胴体が力なく地面に倒れるさまを横目に俺は左手に握る剣についた血を払い、そして背中の鞘を納める。

 周囲になにもいないことを確認して俺は息を吐き出した。


「ふう、疲れるな……」


 すでに何年も続けているというのに一向になれないことに自分のことながら多少呆れる。とはいえ生き残れているのだから問題はないのだけれど。

 一休みの前にとりあえず依頼主に報告のために今し方殺した〝ゴブリン〟そして彼等を率いていたドルイドゴブリンの耳を削ぐ。

 これが討伐の証となるわけだ。


「これでよしと」


 散らからないように穴をあけ縄で繋いで皮袋に放り込み――


「燃えろ」


 唱え、印を切る。

 するとゴブリン達の体〝だけ〟が炎に包まれ焼かれていく。すぐに辺りに漂い出した肉の焼ける嫌な臭いに顔を顰めつつその場を去る。


「お待たせ」


 俺が声をかけるとまるで〝おかえり〟とでもいうようにその馬は嘶いて答えた。その黒馬の名は〝レックス〟。俺が数年前に出会いそれからずっと一緒に旅をしている相棒だ。


「よしよし」


 じゃれついてくるレックスの頭を撫で、そしてその背へ跨る。


「おし、いくぞ。レックス」


 急ぐ必要はどこにもない。依頼主の待つ街までどんなにゆっくりいったとしても二日と掛かる距離ではないし、念のために食料も多めに買い込んである。


(少しゆっくりして帰るか……)


 そんな思いで街道に出た後は力を抜いて、ただレックスの蹄鉄と地面が鳴らす規則正しい音に耳を傾け、わずかに微睡していたそんなときだった。


 キャアアアアアア!


「うおっと!」


 女性の悲鳴が響く。

 突然の出来事にレックスから転げ落ちそうになるがなんとか堪え、辺りを見回して耳を澄ます。

 たしかに女性の悲鳴だった。

 おそらくどこぞの食い詰めた盗賊辺りに襲われたのだろう。


(やれやれ)


 胸中で嘆息しつつレックスの馬首を聞こえた方角へと向ける。


(襲うなら俺の聞こえない範囲でやってくれよな。まったく)


 グチぐちと文句を垂れつつレックスを走らせる速度は先ほどとはまったく違う全力疾走。

 街道を抜け、林道へ入り、そこから自分の感覚を頼りに獣道を歩く。普通であったなら見失うか、見つけられないところだが幸いにも俺はそういう無茶が聞く程度には普通ではない。

 そしてしばらく歩いたところで唐突に普段の森ではありえない臭いが鼻を突く。


「ビンゴ」


 それは血の匂い。

 小さく呟き、先ほどゴブリン達と戦った時とは違うもう一本の剣を背中から抜き去る。


「へへへ、さあ御嬢さんの番だぜ!」


 やはりというか、そこあったのは真新しい複数の馬と人間の死体。人間の方は護衛のようで剣なので武装していたようだが大した役には立たなかったらしい。そして最後に残った貴族と思しき機能的な服装に身を包んだ少女は怯えるように自分を取り囲む男達を見る。


「そこまでにしときな。ごろつきども」


「あ?」


 茂みから姿を現すと全員の視線がこちらへ向く。


「なんだ? てめえ」

「優男はすっこんでろ!」


 斧や見ただけで粗悪だと分かる刀剣を片手に強気に睨む男達。やはりというか、予想通り食い詰めた農民出身の盗賊のようらしい。であれば貴族を襲うのは道理だ。

 横目で地面に座り込んだ少女を流し見て、ため息をつきたい気持ちを抑え剣を構える。


「警告だ。俺の二本の剣の意味がわかるのならここから立ち去れ。そうすれば見逃してやる」

「へっ! 知るかよ!」

「……警告はしたからな」


 放たれた言葉も遮られ、返答とばかりに斧が俺へと向かう。

 だが、考えてもみてほしい。俺は複数のゴブリンをはじめとした異形と何年も戦い、そして生きていた。

 であるならば、こんなごろつきの攻撃など当たるはずもない。


「ハァ」


 ついに抑えきれなくなったため息と同時に無駄に大ぶりなその一撃を躱し、そしてまったくの無防備となった男の胴体へと剣を振り下ろす。

 今日研いだばかりの鋼の剣の切れ味は大した鎧も着込まない盗賊の体を両断するには少し過剰だったかもしれない。


「くそがぁ!!」

「死ね!


 仲間を殺された怒りのままにままに今度は二人同時に襲い掛かる。

 もしこれが訓練された兵士であったなら焦りもしただろう。だが相手はただの盗賊、一人二人増えたところでなんの脅威もない。


「踏込みも甘いし、振り下ろしも遅い。来世からやり直せ」


 先ほどの焼き増しだ。無駄に大ぶりな一撃を躱し、そして返しの一太刀で絶命させる。

 悲鳴すら上げる暇もなく二人の盗賊は物言わぬ死体と化し、最後の一人はようやく事態を理解する。


「ひ、ひぃ!!」

「――去れ」

「か、かあちゃぁぁぁん!!」


 剣片手に少し凄むと男はそのまま逃走した。


「まったく、無駄なものを切ってしまったものだ」


 ヒュンと剣を振りこびり付いた血液を振り払ってから鞘へ戻す。


「さて、御嬢さん。御無事かな?」

「え、ええ」


 視線を少女の方へ戻し、そして問いかけるとわずかにどもってはいたもののしっかりとした声が返ってきた。


(貴族みたいだが意外と肝が据わってんのか)


 辺りには争いとは無縁な町人であれば嘔吐してしまうほどの光景があるというのに少女の顔にその兆候は見られない。

 そんなどうでもよいことを思っていると少女は当たりの樹を支えにどうにか立ち上がって見せた。


「見ず知らずの私を助けていただき本当にありがとうございます。貴方様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」


 そして意外にも敬意を持っての言葉に俺もその言葉と態度には驚きを隠せなかった。普通の貴族であればまずしないことだけに。


「? どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。皮肉ではないのだがまさか魔物狩人モンスターハンターに敬意を払う貴族が居たとはと驚いているんだ」


 俺がそういうと少女はおかしそうに笑った。


「自分の命を救ってもらった恩人を蔑むほど私は愚かではありません。それにあなた方狩人がいるからこそ私たちは魔物の脅威から安全に暮らせているのです。感謝こそすれ、罵倒などもってのほかです」

「――ありがとう。その言葉で十分だ。俺の名だったな。ゲラルトという、ただししがない魔物狩人モンスターハンターさ」

「ありがとう、ゲラルト様。私はアンネ。アンネローゼ・フォン・シュトラスブルグと申します」


 そういって少女……アンネはその場で優雅に一礼してみせる。

 シュトラスブルグという名前はいくら貴族社会に縁がなく、そして関わりがないとはいえ知っている。

 俺の現在、拠点を置いているカルデニア王国。その王に連なる公爵の名前だったと記憶している。つまり目の前の少女は貴族のなかでも頂点に近い位置にいる存在であるということだ。


「驚いたな。貴族だとは思っていたが……」

「フフフ、驚いてただけたようでなによりです。ところで、一つお願いを聞いていただけないでしょうか?」

「ん? なんだ?」

「彼等を、埋葬してあげたいのです」


 アンネが指したのは彼女の護衛と思しき数人の男。


「わかった。手伝おう」


 その程度であればお安い御用だと頷くと彼等の死体を担ぎ、一つの場所に集める。


「土葬はグールとかの屍鬼になってしまう恐れがあるから火葬にしようと思うが大丈夫か?」

「はい。お願いします」


 アンネの言葉に頷くと印を切ると遺体が炎に包まれる。


「それが貴方方の……」

「ルーンだ」


 力の文字によって特殊な現象を引き起こす魔法の一種と彼女に軽く説明しそして祈りをささげるアンネを横目にこれからのことを考える。


(まあ、なにはともあれチュレンの街に戻ることが先決だな)


 そうすれば彼女の家の人間もいるだろうと結論し、少し離れた場所に置いてきたレックスを呼ぶために指笛を鳴らす。ヒューという甲高い音が森に響きほどなくしてレックスが茂みから姿を現す。


「あら、立派な馬ですね」

「俺の馬のレックスだ。御家の馬には負けるかもしれないが此奴も中々優秀な奴だ。此奴で街まで行く、乗馬は出来るだろ?」

「ええ」

「おし、二人乗り用の鞍じゃないからちょっと狭いがそこはご勘弁願う」

「フフフ、大丈夫ですよ」


 アンネが先に跨り、続いて俺もレックスの鞍に腰掛ける。態勢的には俺の太腿付近にアンネが座っている形だ。アンネが小柄だったから出来ることだ。これが大柄な男であったならこうはいくまい。


「さて、行くとしますかね。街までは数日もあればつくだろう、そこまでは送ろう」

「ご厚意に感謝します、ゲラルト様」


 生まれてこの方、さま付で呼ばれたことのない俺は若干の気恥ずかしさを覚えつつレックスを走らせるのだった。

 はるか遠くの存在との邂逅。それが忘れ去ろうとしていた俺の運命との再会でもあったとはその時の俺は知る由もなかった。


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