1話
地元じゃBig-Dなんて呼ばれてたワル中のワル、ドルフ・メトリクス(享年19歳ゾンビ歴3年)がまさか十七歳の女の子に頭を蹴り潰されるなんてきっとノストラダムスやダ・ヴィンチだって想像出来なかったはずだ。
「Ue wo muite, Arukou,Namida ga kobore nai yo ni」
「ミランダ、なんだその曲は?」
「スキヤキ。上昇志向があれば泣かずに済むっていう日本の曲よ」
「ふぅん。そぉうら二十七人目! 行ったぜこりゃスプラッシュヒットだ!」
チャールズ・ノーマンは肘をうまく畳んで内角高めのリンジー・ヒル(享年41歳ゾンビ歴3年)の頭をクギバットの芯で捉えた。火の吹くような打球はドス黒い血のアーチを描く。
「ダイヤモンドを一周したいくらいだ。ステロイドなしでこんだけ打てるんだから俺もキャメロン・ディアスと付き合えるはずなんだがな。なんだっけ、日本の曲か。ドクに聞いたのか?」
「ええ。キュー・サカモトの曲だって。日本でも有名な音楽家だったらしいわ。でも彼は飛行機事故で死んだんだって」
「オバケのキュータローってことか。そりゃ残念だ。どっこらしょっと。そろそろシメるか。ミランダ、アレ、使え」
「わたしに加算してくれる?」
「打ったヒットの数よりも美しいホームランを打った方がヒーローだからな。ヒーローは俺だがハイスコアはお前でいいさ」
「ありがとう兄さん」
本日のおすすめ商品コーナーでは爆薬のF3を紹介しよう。まず材料はバイオ・メジャーインダストリーズの化学肥料レッドスナッパー! 一握りのコーンを植えた畑にコイツを飛行機からばらまけば一年後にはプールを埋め尽くすほどのポップコーンを食えるというシロモノだが、これとガソリンといくらかの手数料を持ってカリフォルニア州にあるバドワイザー基地に持っていくと強力な爆弾”F3(Fuckin` Fuck Flash)”に作り替えてもらえるぞ! その威力は今からカリフォルニアに住む兄弟が実演してくれる。
ミランダはサイドカーに積んであったミッキー&マロリー社のチキンブリトー、そしてF3を搭載したピカピカのラジコンヘリを取り出し、チキンブリトーのパックを撃ち抜いた。死ぬまで違いがわからないミッキー&マロリー社のチキンブリトー。違いの分かる生ける屍たちは新鮮な人間たちよりも通好みの冷凍食品に向かっていった。
ジョン・カーチス(享年32歳ゾンビ歴5年)、ジョセフ・アルバラデホ(享年27歳ゾンビ歴4年)、マチルダ・ブラウン(享年19歳ゾンビ歴5年)、キャリー・フォード(享年57歳ゾンビ歴5年)、リンダ・コナーズ(享年6歳ゾンビ歴5年)は死後ゾンビになってしまったことと、同じ爆弾で二度目の命を終えたこと以外に共通点はなかった。F3の爆風と爆炎はどんな凄腕の検視官だろうとどれが誰のパーツだったのかもわからないほど粉微塵に吹き飛ばし焼き尽す。
「こりゃすげぇや。これでヤツらもオバケのQタロー、っと」
「わたしに十点加算でいいかしら?」
「いいぜ」
さぁ、いかがだっただろうかF3! メモの用意は? 材料はバイオ・メジャーインダストリーズの化学肥料レッドスナッパー、ガソリン、手数料。化学肥料は園芸コーナー、ガソリンは放棄された車、手数料はレジ。すべてお近くのイチバンマーケットで手に入る。あとはお近くのロケット基地、ナードの家、テロリストのアジトに持っていくだけだ。
「今日のハイスコアはミランダだな」
じゃあ今日のゾンビ殺しカリフォルニア場所のスコアの発表の時間だ。
1位に輝いたのは三十三点でミランダ・ノーマン(年齢17歳)! 実際にぶっ殺したゾンビの数は二十三人だがラストを飾った華麗なラジコンテクニックでボーナス十点、本日のハイスコア。2位はお馴染みチャールズ・ノーマン(年齢27歳)、年齢と同じく二七点。ビリは六点でキャプテン・カリフォルニア(年齢不明)。
「驚いた……君たちはいったい何者なんだ?」
そうだ、ノーマン兄妹のいつも通りの活躍に霞んでしまってキャップがいたことをすっかり忘れていた。
紹介しよう! 赤と白の全身タイツに星のマークの盾、顔の半分を覆うマスクの額にはCaliforniaのCのマーク! そう、彼こそがカリフォルニアの平和を守るスーパーヒーロー、キャプテン・カリフォルニア! あちこちにいるキャプテン・アメリカインスパイアの一人だ!
「ただの無敵な通りすがりの親なき子さ」
EP 4 The end of Captain California
「本当に助かったよ。まさかあんな数のゾンビがやってくるなんて思ってやしなかった。君たちが来なければこの町はもうゾンビたちのクラブハウスになっていたよ」
「ああ、キャップ。また会えて光栄さ」
「また?」
「おや、違ったかな? キャップには今までに何度もあった気がするぜ。最初はコミックだったはずだが、キャプテン・サンフランシスコやキャプテン・ロサンゼルス、キャプテン・オークランド、キャプテン・クレストゲートパーク……」
ノーマン兄妹とキャプテン・カリフォルニアが出会ったのはフリーウェイ沿いのレストエリアだった。キャップはそのレストエリアから数十マイルほどのウィンターパークという町に住んでいて、キャップは時折ドライブをしながらゾンビを倒し、ウィンターパークの平和を守っているのだ。流石キャプテン・カリフォルニア! しかしそんなキャプテン・カリフォルニアも今日はちょっとヤバかった。母親を探す通りすがりの旅人兄妹がいなければ死んでしまうところだった。キャップは兄妹を町に招待することにした。兄妹は今日の宿を決めていないようだったし、さっきみたいなゾンビの群れがもしウィンターパークに押し寄せてもきっとこの兄妹が倒してくれるだろうと、そういう下心も少しはあったかもしれない。
「わたしたちの故郷にもキャプテン・オレンジがいたわ」
キャップは町の人気者だ。キャップは決して凄腕のゾンビキラー……例えばシアトルのベラトリクス・サンダーランドやアナハイムのバラチ兄弟やサンフランシスコのミセス・ミチル程ではないがこの十年間、マジで町をゾンビから守り抜いていたし、彼は本物のキャプテン・アメリカのように気高く優しい心で誰よりも正義と平和を愛していた。だから町の人々も彼を愛していたし彼の正体を暴こうとする者もいなかったし、うっかり彼の正体を知ってしまった人もそのことをバラしたりはしなかった。町の人はキャップが無事に生還したこと、そして旅人の兄妹がキャップを助けてくれたことを祝福し、町で一番のレストランに案内してくれた。これもキャップの人徳だね! さすがキャップ!
「キャプテン・オレンジの正体はマーク伯父さんじゃなかったか?」
「ゾンビ現象が起きた時に、もう会社に行かなくてもいいんだ! ってキャプテン・オレンジに変身してすぐに死んだわ」
「あれは気の毒な事件だった」
「そのキャプテン・オレンジが乗ってたバイクがあれ」
「伯父さんはずっと言ってたっけ。マッキンリーが見たいって。あぁ、えぇとなんだっけ? そう。キャップ。あぁ、そう。悪いことは言わない。サンフランシスコでドクター・イマガワっていううさんくさい日本人が診療所兼古物商兼バーをやってる。一度そこに行った方がいい。サンフランシスコは今、ゾンビキラーズが飽和状態だからな。ドクターのところにはミセス・ミチルっていうとんでもねぇ凄腕の日本人がいる。彼女を借りてきてしばらくここに置いておいた方がいい」
チャールズはキャップに当たらないようにタバコの煙を控えめに吐いた。それでもその言葉は温厚篤実なキャップの気に障ったようだった。
「何が言いたいんだねチャールズ君」
「俺が言わなくてもわかってるんだろうキャップ。アンタのためだぜ」
「もう一度言う。何が言いたいんだねチャールズ君」
「じゃあ言うよ。東洋医学ってヤツは馬鹿になんねぇってことさ」
「その言……」
ガシャアン! けたたましい音を立ててキャップはシーザーサラダのボウルに頭を突っ込んでしまった。ウェイトレスが悲鳴を上げる。
CZK2 4-1-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK2 4-1-B
バットマンの正体がブルース・ウェインだということは誰も知らない。スーパーマンの正体がクラーク・ケントだということも誰も知らない。スパイダーマンの正体がピーター・パーカーであることもウルトラマンの正体がハヤタ隊員だということも誰も知らないが、アイアンマンの正体がトニー・スタークであることは周知の事実だ。キャプテン・カリフォルニアはどちらかというと後者のタイプ。キャプテン・カリフォルニアの正体がウィリアム・ロジャース(57歳)であることは実はウィンターパークの住民(まだサンタクロースを信じているほんの小さな子供を除いて)の全員が知っていた。そして彼が不治の病であることも、もう彼の命が残り少ないことも。皆が知らないふりをしていたのだ。それはウィンターパークの住民たちの心が町の名前の通りに冷たいからではなく、キャプテン・カリフォルニアがそう望んでいると感じていたからだ。
*CM
「College student's idiot. So fun. Travel, development, combat, and discovery ...『Walk Now For So Meet』, every Wednesday and Saturday」
「『Son of the devil in TOKYO』」
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中





