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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP 3 ブロードウェイはバラ色に
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3話

 元海兵隊所属のリック・コーエン(享年37歳、ゾンビ年齢3歳)に訊いてみよう。


「なんでも好きな職業につけるとしたらあなたは何になる?」


 答えは……。


「うぅぅあ゛ぁぁぅ……(もちろん! ミッキー&マロリー社のチキンブリトーのCMに出演するよ! あれを食べればヘナ*ンの陸軍野郎だってポパイになれるぜ! ってな!)」


 残念! 英語で答えなかったペナルティは大好物のミッキー&マロリー社のチキンブリトーお預けと銃弾だ。来世では頑張ってね、リック・コーエン。


「本当によく効くエサだにゃ」


 正面ゲートに積まれたミッキー&マロリー社のチキンブリトーから発せられる香しい悪臭に誘われてゾンビたちが先を争ってセントラルフィールドブロードウェイから飛び出して来る。リック・コーエンと同じ質問をしたらきっとこのゾンビたちは同じ回答をするだろう。でももし海軍じゃなく元陸軍だったらポパイじゃなくて「あれを食べれば乳しゃぶり野郎の海軍小僧だってキャプテン・アメリカになれる」って言うだろうけど。そんなミッキー&マロリー社のチキンブリトーシンパの群れに白装束はいない。


「最高だろ? お前もワイフと喧嘩した時は仲直りのプレゼントにサプライズでくれてやるといいよ」


「そいつぁ面白い案だにゃ。絶対にやっちゃいけない例として覚えとく」


「数が多いな。弾が勿体ない。ミランダ、爆弾を使え」


 どんな悪路も駆け抜ける四輪駆動のラジコンカーはミッキー&マロリー社のチキンブリトーに群がる険しいゾンビの山に向かって走り出した。もちろんミランダお手製の爆弾をたっぷりと積んで。ミランダはジャパニーズサムライソードアンブレラをさしてから起爆装置をクリックした。


「にゃ~、まるでハッパで鉱山をぶっ放したみたいだにゃ」


「カミカゼ特攻はそっちの得意戦法だろ?」


「人間追いつめられると核だって落としちゃうのにゃ」


 ミランダの爆弾で吹き飛んだ、過激リベラル系女子大生エンゼルベルト・ネルソン、通称“ロスのジャンヌ・ダルク”の鋭かった舌を棒きれで突きながらドクターはあくびをした。


「んにゃ、ゾンビの出が悪くなったにゃ」


「便秘にも効くロケット座薬が一発車に積んである。ぶち込んでみるか?」


「これ以上セントラルフィールドブロードウェイを傷つけないでほしいにゃ」


 チッ、と舌打ちをしてチャールズは厚手のジャケットを羽織った。彼の皮膚で露わになっているのは顔と手の先だけである。皮膚を覆うことでゾンビに襲われても感染するリスクを下げたのだ。


「この時期にこの服装は暑いんだよ」


 クギバットは車に立て掛け、代わりにありったけの銃弾、ナイフ、手榴弾、ミッキーアンドマロリーのチキンブリトーのパックを鞄に詰める。ミランダもそれに倣いナイフ、ランプ、鞄に詰め込む。


薬草(ハーブ)は持ったな? ダンジョン探検の時間だ」




 〇




 セントラルフィールドブロードウェイに入るとまず右手にはフュギュアのウィンドウが並ぶ。どれも旧貨幣$のフダにプレミアな数字が添えられている。


「おい最ッ高! だぜッミランダ! ハイラルの盾だ! 四八〇ドルだってよ!」


「四八〇ドルだと……一ゾンビドルくらいかしら」


 紋章の入ったプラスチックの盾に伸ばしたチャールズの手をドクターが払い落とした。


「何すんだよ」


「これはもともと僕が欲しかったもんだにゃ」


「だから?」


「それにここは特定指定廃墟にゃ。なるべくそのままの廃れ具合を保護しなければならにゃい。よって緊急事態を除き窃盗は不可にゃ」


 ドクターは懐から札束を取り出し、カウンターに置いて盾を手に取る。


「ゾンビのクラブになってる廃墟でボクみたいなインテリ特化の人間のゾンビ探しは四八〇ドル出して盾を買うほどの緊急事態にゃ。生憎二〇〇ドルしか持ってないから二〇〇ドルしか払えにゃいが」


 ドクターはハイラルの盾を手に入れた!


「ちぇ、都合のいい野郎だ」


「安心するといいにゃ。お宝はいくらでも眠ってるにゃ」


「宝探しとボス討伐はダンジョンの醍醐味ってか」


「ボスって言ってもどうせ元スモウレスラーかなんかのデカいだけのゾンビにゃ」


 ミランダはブロードウェイの反対側をなぞる。先ほどのミッキー&マロリー社のチキンブリトーで一階にいたゾンビはあらかた始末してしまったようだ。

 ランプの揺れる明かりが立て看板に文字を浮かび上がらせる。


「あー、えー、ドクター。これはなんて書いてあるの?」


「黒ネコちゃんメイド喫茶だにゃ。きっと日本人オーナーが日本人向けにボったくった店だろうにゃ」


「どんな店?」


「黒いネコの耳を象ったカチューチャの女の子にメイドの服を着せてコーヒーを運ばせるんだにゃ」


「メイドの服? 全然ダメだね。やるならフーターズやバドガールみたいに露出して色気を出さねぇと。メイドで興奮するのはアーノルド・シュワルツェネガーぐらいだ」


 チャールズは少し進んで天井を見上げる。三階までは吹き抜けで二階には小さなテラスがある。三人で珍品の店ばかりのショッピングモールを行脚し、テラスから下を歩いていたダニエル(享年27歳ゾンビ年齢1歳)とその妻モリー(享年26歳ゾンビ年齢1歳)を射殺し、ガク・シマムラ探しを続行する。


「ゲームコーナーだにゃ」


 ドクターが三階の暗い一角をライトで照らした。


「古ーい古ーい筐体に何十年もへばりついて、実況者とプレイヤーがコンビを組んでネット配信してたもんだにゃ。あの頃のセントラルフィールドブロードウェイはよかった」


「ドクターにとってもノスタルジーで特別な場所なのね」


 目を閉じて数々の光景を瞼の裏に浮かばせるドクター。


「ミランダもいつか日本に行きたいのなら、その時はセントラルフィールドブロードウェイに行ったことがあるというのが大きな財産になるはずにゃ。きっと誰かが君を大歓迎するはずにゃ。おっと」


 格闘ゲームの筐体の影に潜んでいた、共米党のバービー人形と呼ばれていたレイ・パリス(享年44歳ゾンビ年齢10歳)の攻撃をドクターがハイラルの盾で防ぐ。さすがハイラルの盾、勇者御用達! ゾンビの攻撃ごときじゃビクともしない! 


「えい」


 ミランダがセントラルフィールドブロードウェイ内で拾ったジャパニーズサムライソードレプリカで共米党のバービー人形の頭を串刺しにしドクターは難を逃れる。


「もう見つからない気がしてきたにゃ」


「ああ、俺もだ」


 チャールズがタバコに火を点けた。


「ん? ドクター、あれ」


 ミランダが暗い室内を横切った白い影に気付く。


「にゃ! 白装束! 間違いない! ガク・シマムラにゃ!」


 ミランダは銃、チャールズはクギバットを構える。ドクターはハイラルの盾を落ちていた筒状の古ぼけた映画のポスターでバンバンとけたたましい音を立てて叩き、ガク・シマムラを挑発する。


「弱らせてから捕まえるにゃ!」


 ブロードウェイに一発の銃声。


「ナーイスショット」


 ガク・シマムラの眉間を撃ち抜く妹の射撃の腕にチャールズが口笛を吹く。ドクターは倒れて痙攣するガク・シマムラ(享年48歳ゾンビ年齢10歳)の死体に駆け寄り、状態を検める。


「どうだ?」


「……ないにゃ」


「ない? 何が?」


「右腕がないんだにゃ」


 ブロードウェイの中の湿った空気を全て吐き出してしまうような大きなため息をドクターが吐いた。


「きっとどっかでもげたんだにゃ」


「本当にガク・シマムラかどうかもわかんねぇだろう?」


 二〇〇〇ドルがかかっているチャールズもミランダが仕留めた死体を覗き込む。


「間違いないにゃ。この左肩のニンジャのタトゥー。ガク・シマムラにゃ」


「なんてこった……。ここまでやってきて得たもんはお前のハイラルの盾だけかよ!」


 ドクターがまた特大のため息をついた。まるで二〇〇〇ドルが逃げて行ったチャールズとミランダの分もプラスしたような大きさだった。せっかく仕留めたガク・シマムラをどうにか出来ないかとドクターは少し考え、皮を剥いで左肩の見事なニンジャのタトゥーをなめすことや左手を持ち帰ることも考えたが、いずれもゾンビとして年季が入りすぎてボロボロのガク・シマムラでは難しく、仮に右手があってもその年季の入りようでは持ち帰って飾るのは無理だったのだと自分の興奮のパラシュート部隊を着陸させた。


「……帰るかにゃ」


「そうだな」


 ドクターの診療所に戻ると、黒髪の小柄なアジア人の女性がやかんのように慌てふためいてドクターの手を握った。どうやら話しているのは日本語らしく、ミランダにはにゃあにゃあ言っているだけにしか聞こえなかったが、ドクターの無事を確認して少し落ち着いたようだった。


「ワイフの美鈴ちゃんにゃ」


「ああ。オヒサシブリー」


 チャールズが両の掌を合わせてお辞儀をする。美鈴ちゃんはそのチャールズの手を取り、夫を無事に帰してくれたお礼をにゃあにゃあと述べた。


「にゃあにゃあにゃあにゃあ。ミランダ、妻の美鈴ちゃんにゃ」


 ドクターが日本語で少女のプロフィールを語り、改めてミランダに妻を紹介する。


「アイム、ミスズ・イマガワ。ナイストゥーミートゥ」


「I`m Miranda Norman. Nice to see you, too.」


 日本人の女性と握手を交わすミランダ。髪も瞳も真っ黒で身長が低くにゃあにゃあ喋る、けれど天才的にモノをクリエイトするのが上手い人種、日本人。


「まったくタダ働きになっちまうところだったぜ」


 チャールズがバーカウンターに並んでいたサケのビンを開け、グラスに注いで一気に喉に注ぎ込んだ。


「にゃ! お前自分で何してるかわかってんのかにゃ! バーに並んでる酒瓶に勝手に触るのは美術館の作品を勝手にいじるのと一緒だにゃ!」


「二〇〇〇ドルとはいかなくても二〇〇ドルくらいの働きはしただろう?」


「……もう、しょうがないにゃ。そのサケはお前にやる。ミランダには……。ミランダは何が好きにゃ?」


 酒瓶を鞄にしまうチャールズを見て、あきれ果てた表情のドクターが疲れた顔をミランダに向ける。彼は今日、慣れないゾンビ狩りと廃墟探検をしたのだ。


「ハイラルの盾……はダメよね? わたしは、このサムライソードが好き」


 ミランダの誇り、それは母がくれたジャパニーズサムライソードアンブレラ。


「んにゃ、それは昔、サムライというソルジャーが使っていたものだにゃ。じゃあミランダにはこれをあげよう」


 ドクターが棚から引っ張り出したのは、眉間に皺を寄せ、口ヒゲを蓄えたいかつい表情の日本人が印刷されたパッケージだった。


「『ショーグン』だにゃ。ショーグンというのはサムライを束ねる高貴なサムライ、グランドサムライのことだにゃ。これはそのショーグンの活躍を描いたドラマにゃ」


「くれるの?」


「ミランダもよく働いてくれたにゃ。それにボクはもうDVDの読み取り面がレーザーで日焼けするくらい観たにゃ」


「ありがとう」


「ミランダ」


「何?」


「いつか日本に来るといいにゃ。きっと君の人生で最も素晴らしい旅行の一つになる。いや、もしかしたらならないかもしれない。君は居ついて旅行じゃなくなるかもしれないにゃぁ~」


 ドクターは化け猫のように口を裂いて笑った。


「うん!」


 いつかゾンビたちもいなくなって日本に行けるようになったら絶対に行ってみよう。案内役に母さんも連れて、と、ミランダは強く心に誓った。

 カリフォルニア州オレンジ郡からそう遠くないどこかの荒野のオアシス。彼はそこに住んでいた。彼は20年前に荒野にやってきて小屋を建て、土地を切り開いて農場を作り、誰とも会わずずっと一人で暮らしてきた。なんでそんなそうなってしまったのかは覚えていない。でもなんとなく「俺ぁ人間が嫌いさ」とかトンガってた時期もあったようなないような……。


「あぁ、まったく最低だぜクソッタレ。いつだって女ってヤツはそうさ。男のことをなんにもわかっちゃいない。自分の物差しで物事を図ってまるで自分だけが正しいような口ぶりで追いつめてきやがる。男は女に対して強い物腰をとれねぇってことをあいつらは本能的に知ってやがるんだ。アナタは世界が自分に与える影響に関しては敏感だけど、自分が周囲に与えている影響に関しては鈍感なタイプね、だってよ。偉そうに。だから俺はこう言ってやったんだ。じゃあお前のいう世界ってなんなんだよってな。やっこさん黙りこんじまったぜ。キャンキャン咆えるだけの哀れな犬ってのは、猟犬にもなれずいつかは愛想を尽かされるもんなのさ。猟犬になれないんなら、犬は可愛くなきゃいけねぇ。それがいいオンナになるためのstep1、可愛げのある女になれ、だ」


 そんな彼のオアシスに、初めてのお客がやって来た。母親を探して旅をしているミランダという少女に名を尋ねられ、彼は自分が名前すら忘れてしまったことを思い出し、こう名乗った。俺は荒野のおっさんだ、と。


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