居たたまれない状況
マグナと男の視線が声の主に向くと、そこに立っていたのはユリだった。
「っ………ユリ?」
「………シジル?」
ユリと男が見つめ合い声が重なる。
するとマグナを狙っていた氷の刃に亀裂が走り粉々に弾けた。
「知り合いか?………!」
マグナがユリを伺い見ると彼女の瞳から涙が溢れ頬を伝っていく。
「やっと……会えた」
「シ、ジルっ」
男の瞳が愛おしげにユリを映し近づいて強く抱きしめた。
「…………………」
その光景を見ながら、マグナは悩んでいた。
「………」
これはツッコミ待ちというやつか?、が邪魔をしてはいけない雰囲気だな……。
しかし何せ相手は今まで戦い、身なりは変質者で武器を持つ男。
「………もう泣くな」
「だっ、て」
「お前の泣き顔は苦手だ………笑ってくれ」
「ばかぁ」
自分と年が変わらなそうな男しかも変質者が母と甘い雰囲気になっていく。
「ユリ」
「っ、シジル」
男の指がユリの顎へとかかり顔を上げさせ、そして二人は見つめ合い近づ……。
「ちょっと待ったぁ!!」
マグナの限界である。
マグナは手を上げ渾身の叫びを上げた。
「!!」
「!!」
二人は驚き動きを止めた。
どうやら、マグナの存在を忘れていたのか二人は顔を赤くしている。
「………あのマグナ…こ、この人は……」
ユリは顔を赤くしたまま何とか話し始めた。
「シ、ジル……という名前でね」
「そ、そうか」
居たたまれないぞ、これは……マグナは軽くパニック状態になりつつ眼を泳がせていた。
「ユリ、何故……この男が指輪を持っている?」
「シジル……この子は……女の子よ」
「なっ!!」
「いかにも私は女だ」
驚き、こちらを凝視するシジルにマグナは勝ち誇ったように笑う。
「二人とも……とても大事な話があるの」
ユリが真剣な表情で二人を見つめた。
「ゆっくり話をしたいから家に行きましょう」
「………」
「………」
二人は頷くと剣と袋を拾う。
ユリは嬉しそうに微笑んでマグナとシジルの手を掴み歩き出す。
三人は家に着くまで口を開くことはなかった。
「二人とも座ってて」
マグナはコタツをつけて足を入れる。
「どうぞ」
ユリがテーブルの上に珈琲の入ったマグカップを三つ置く。
「シジル、ここに足を入れると暖かいの」
「ほぉ、これはいいな」
シジルは恐る恐る足を入れた。
「……二人は恋人同士なのか?」
二人のやりとりを見ながらマグナが口を開く。
「えーとね、マグナ……この人は……」
「恋人というか婚約者だ」
「!?」
「ちょっ!!」
言いづらそうにしているとシジルが答えユリが抗議の声を上げた。
「……おい、シジルとやら私の質問に嘘、偽りなく答えてもらおう」
マグナはシジルを鋭い眼差しで睨む。
「年齢は?」
「十九だが……」
「え!?」
何故かユリが驚いているのマグナは見逃さなかった。
「………職業は?」
「………ぼ、冒険者的な」
シジルが答えた後、マグナは丁度よく冷めた珈琲を一気に飲みほす。
「……母よ、悪いが私はコイツとの結婚は反対だ!!」
マグナは言い終えるとユリを睨んだ。
「あのマグナ……シジルは貴方の」
「もういい、母はコイツの歳も知らない様子だったではないかっ!!」
聞くつもりはないとマグナは立ち上がる。
「待ってっ、マグナ!!」
「……疲れた、休む」
「マグナ……っ!」
呼び止めようとするユリをマグナは強く睨むと自室に向かった。