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指輪


「ぁ、そうだ……指輪はちゃんと持ってる?」


「ふむ」


首に手をひれて、銀のチェーンを出した。


チェーンには真ん中に赤い宝石がついた銀の指輪が通してある。


この指輪は元々、ユリの物でマグナの十六歳の誕生日に贈られた物だった。


「………よかった」


ユリの瞳が切なげに指輪を見つめている。


「……母よ、これは父の形見なのだろう?、やはり持っていた方が良い」


チェーンから指輪を外し、ユリに差し出す。


「いいの、私はマグナに持っていてほしいから」


「………ふむ」


ユリは頑固な性格をしているので何を言っても受け取らないだろうとマグナは手を引いた。


「どうだ、似合うか?」


「えぇ、とても」


薬指に指輪をはめ見せるとユリは嬉しそうに笑った。


「そうか……で、何を買ってくれば良いのだ?」


マグナはエプロンを取り、白のシャツと黒のパンツというシンプルな姿になる。


「オヤツ、食べないの?」


「いらん、ポテチは母にくれてやろう」


「………くれてやろう?」


ユリは神々しい笑顔と背後には淀んだ黒いオーラを纏いマグナを見つめた。


「いゃ、ポテチは母の好物だろう、それ故、涙を飲んで贈呈しようぞ」


「そう?」


目を逸らしながらマグナは引きつった笑みを浮かべる。


「で、何を買ってくれば良いのだ?」


「卵と食パン、買ってきて」


森家の朝食はパン派である。


「あぁ、でも最近、変質者が出るって……もう遅いし気をつけてね」


「ふん、母よ……私は強い」


マグナは勉強や運動、人より優秀、ケンカもしかりだ。


「やり過ぎないように」


「……考慮する」


マグナはコートを羽織り財布をポケットに入れて『フルール』を後にした。


「寒い」


季節は冬、十二月上旬、日も傾き薄暗い。


「無駄遣いはしたくないが……しょうがないな」


『フルール』をすぐ出たところにある自販機を見つめた。


「おしるこ……コンポタ……はっ」


おしるこか、コーンポタージュか究極の選択である。


「売り切れだと……まぁよい」


コンポタが売り切れだったので、おしるこのボタンを押した。


「………よし、買い物が終わったら飲むとしよう」


マグナは猫舌である。

おしるこをポケットにいれカイロの代わりにしつつ歩き出した。


「ぁ、あのマグナさんですよね!?」


「ん?」


呼び止められマグナは足を止めると指定のコートに赤いチェックのスカート、見慣れた制服の女子高校生が立っていた。


「………?」


「あのっ、私、同じ高校の後輩で……」


マグナがこうやって呼び止められるとは少なくない。

因みに高校は共学である。


「一目惚れなんですっ」


そしてクリスマスが近いせいか最近、多い。


「付き合ってくださいっ」

客商売が故、無碍にはできん……うんざりとする気持ちをマグナは隠し微笑みを浮かべる。


「何か………誤解しているようだが私は女なのだ」


「知っていますっ!!」


「!?」


キラキラとした瞳で見上げ近寄ってくる女子高生をマグナは手で制止した。


「申し訳ないのだが……百合には興味がないので」


マグナの正直な気持ちである。


「ぁ、その指輪……付き合ってる人いるんですかっ!?」


おお、この手があったかっ!!、とマグナの瞳が光った。


「あぁ、だから君と付き合うことは出来ぬ」


「っ、でも私……諦めませんっ!!」


そう言いはなって駆けていく。


「はぁ、早めに諦めてくれ」


その後ろ姿を見ながらマグナは溜息をつき呟いた。


「……くっ、ぬるい!!」


マグナがポケットの中のおしるこに触れる。


「急がなくては」


買い物が終わる頃には、すっかり冷めてしまいそうだ。


「ちっ!!」


マグナは走り出し、きちんと特売品を見極めスーパーを後にした。


「任務完了だな……んっ」


スーパーから少し歩いた所で、おしるこを開け一口飲む。


「……危なかった」


特に冬、猫舌にとって冷たいと、ぬるいは紙一重である。


「おい、貴様っ!!」


「…………」


また呼び止められてマグナは足を止めた。


「次は男か……しかし」


赤みがかった髪と瞳、マグナと同じぐらいに整った顔だちをしている。


年齢はマグナと対して変わらないように見えた。


「その格好、末期の中二病だな……イケメンさを掻き消すほどの痛さだぞ?」


真っ赤なマント、腰に下げた剣。

どこぞの王子だと言いたくなるを身なりをしている。


「僕を愚弄しているのか!?……っそれよりも」


腰に下げた剣を抜きマグナに向けた。


その剣にはマグナの指輪にある赤い宝石と似た宝石がついている。


「それを何処で手に入れた!?」


「……自販機だが」


おしるこを持つ手を剣で差しているのでマグナは正直に答えた。


「じはんき?」


「面倒くさいな………これだ」


近くに自販機があったのでマグナは指差す。


「ほら、おしるこ……同じだろう?」


「違う!!、その指輪のことだ!!」


男はマグナの薬指に光る指輪を切なげに見ている。

しかしマグナと母にとって大事な物だ。


「……何故、見ず知らずの変質者のような奴に答えねばならんのだ」


「いいから答えろ!!」


切なげに揺れた瞳に鋭さが増し睨むようにマグナを見据える。


「ふっ、面白い」


肌がピリピリとし、ぞくりとする、マグナは初めての感覚に楽しそうに笑った。

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