『フルールの王子様!?』
艶やか花、愛らしい花、色とりどりの花々が並ぶ、ここは花屋『フルール』。
「王子、きゃ~」
「かっこいぃ」
店内には、きゃあ、きゃあと女性の声が響いていた。
「本当に女の子なの~」
声の中心には緑のエプロンの店員が一人、立っていた。
「貴女のような可愛らしい方は……」
中性的な整った顔立ち、赤みがかった髪を後ろで束ねていた。
黒い大きな瞳で一人の女性を見つめると見せかけ他の女性にも視線を投げている。
エプロンのネームプレートには森マグナ、十六歳と書かれていた。
彼女は『フルールの王子様』と呼ばれている。
「こちらの花が似合う」
「きゃ~」
ピンク色の花びらの可愛らしい花を持ちながら、フッと笑うと歓声が上がった。
「しかし………一輪では君の美しさに花が霞んでしまいそうだ」
目を伏せて憂いを帯びた表情を浮かべる。
「あのブーケにしてもらえますか!?」
「もちろん」
「私も!!」
頬を染めた女性が興奮した様子で叫んだ。
「ありがとうございます、お嬢様」
心の中でチョロいな…と思いながら爽やかに微笑む。
黄色の歓声をBGMに、マグナはバックヤードに下がっていく。
「お疲れ様、マグナ~」
彼女は森ユリ、三十二歳、マグナの母であり花屋『フルール』のオーナーである。
因みに彼女達の自宅は店の裏手に建っていた。
「今日も稼いだぞ、母よ……よって糖分を要求する」
マグナは勝ち誇った顔でユリを指差した。
「ママを指さすのやめなさいって言ってるでしょ!?」
「私としたことが!!」
「普通にオヤツって言えばいいのに……テーブルの上にポテチあるから」
「……母よ、それは塩分ではないか!?」
ケーキ的な物を想像していたマグナはうなだれた。
「………え?」
「はぁ」
首を傾げ、きょとんと瞬きをした母に溜息をつく。
「おやつ、食べたら買い物してきてくれない?」
「いやはや、私は疲労困憊、故に…………」
「マグナ?」
ユリの笑顔が神々しい、マグナにとって母の命令は絶対である。
「御意」