帽子を被る女
ニャースロー空港……猫のヒースロー空港。
ニャンボジェット……猫のジャンボジェット
ニャメール……猫の写メール
「……」
私は安楽椅子に座り、ニャラケーで電話をするニャームズをみていた。
「……」
ニャームズは目を半開きにし、口をムニムニさせながら黙って相手の話を聞いている。
「……」
相手は誰だかわからぬが「ぶっころしてやる」だの「そこで待ってやがれ」などの物騒なことを叫んでいるようだ。
「わかった。お疲れ様。それじゃあね」
ニャームズは電話を切った。
「お待たせニャトソン。それで? なんの話だったかな?」
「いいのかい? 電話の相手、大分怒っていたようだが……」
「構いやしないよ。ところで僕は明日からちょっと外国へゆくことになった」
「また随分突然だな? もう驚きやしないがね。電話の相手が原因かい?」
ニャームズは引き出しからパイプを取り出し、瓶に入った乾燥タマネギを詰め、マッチで火をつけてスパスパと吸い出した。
もう彼にタマネギを止めさせるのは諦めた。
1日2~3度だ。
許すとしよう。
「まあね」
「ふむ……それでこれは聞いた話なのだが……鰹が丘の東にショッピングモールがあるだろう?」
「あるね」
「そのモールの広場にね。紙袋を二つ持った女性が黙って立っているんだよ」
「それがどうしたというんだい?」
「うん。彼女は広場の中心で黙って空を見上げ、片方の紙袋から帽子を取り出しかぶるらしい。色は毎日違う。その後は何も買わずにモールを出る」
「ほう?」
「つまりだ。彼女は帽子を被るためだけにそこに毎日やってきているんだな」
「ふーん……それで?」
「それだけだよ。この話はニャンキチじいさんに聞いたんだ」
ニャンキチじいさんは半ノラの人間好きな温厚な老猫だった。
「なるほどね。あのモールの近くには『ニャースロー空港』があったね。『ニャンボジェット機』で旅にでる前にその女性の行動の意味を謎解きしてあげようか?」
「えっ? ということは……」
毎度のことながら驚かされる。
ニャームズは私の話を聞いただけでどうやら真相がわかったらしい。
「彼女があそこで帽子を被る理由がわかったのか? ここで説明してくれよ」
「不確かなことは口にしたくない。ただヒントをあげよう」
「答えを教えろよ」
じれっニャイ。
「焦るなニャトソン。つまり……恋だよ」
「恋?」
「そうさ。そんなことよりいいのかい? 今日の面会時間が終わっちまうぜ?」
「……いかん!」
病院の面会時間に遅れたら我が息子コッコと我が妻ナタリーに会えぬ。
私は身支度を素早く終え、シルクハットを被った。
「今日もたくさんニャメして君に見せてあげよう」
「……お腹一杯だよ」
私は毎日赤ん坊の写真を大量に撮り、ニャームズに見せていた。
ニャームズが外国にいくのはそれも原因だったかもしれない。
いいさ。直接ニャメールでニャームズの携帯に送りつけてやる。
「それでは明日」
「うん明日だ」
私は獣医へと急いだ。