サイン会
「……」
小さな子猫が私を見つめていた。
「絵はなにがいい?」
「ニャームズ先生」
「うん」
私が何をしているかって?
……サイン会である。
信じられないことにニャーランド誌から「ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。」の出版オファーがあり、本日は発売記念のサイン会なのである。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
私は文章のほかに上手くも下手でもない絵を書くことができる。
私の場合サインとは「ニャトソン」と名前を書くだけなので、それでは申し訳ないと簡単なイラストをサインの横に添えている。
イラストのリクエストのナンバーワンはニャームズ。
二番はニャンダイチ。
イケやフジンのリクエストもあるというのに「ニャトソンさんを書いて」というリクエストは一つもなかった。
……ところで読者諸君は占いを信じるだろうか?
こんな話をしだしたのには理由がある。
今日、私は雑誌で『あなたを理解してくれる誰かが見つかるでしょう』と書いてあるのを見たからだ。
ぜひ、本当であってほしいものだ。
占いは私をワクワクさせる。
ニャームズやニャンダイチにこんな事を話したら『何を非科学的な』と笑われるだろうが……
構いやしない。
奴ら選ばれたモノには占いに頼りたくなる私の気持ちなどわからぬのだ。
「ニャトソンさんって不細工だね」
「……!?」
私の本を持った子猫が私の前にそれを広げた。
「本もおもしろくなかったよ。でもせっかくだからサインちょうだい。ニャームズ先生ね」
「わっ……わかった」
肉きゅうでぶん殴ってやろうかと思ったがグッと耐えた。
どうやら一応、本を買ってくれたみたいだし、メスみたいだし。
「できたよ」
「くさそうな絵」
「!?!?!?」
「本当は嫌だけどお母さんがニャーランド誌を買ってくるからイヤイヤ読んでるの。じゃあね。ニャトソン先生」
「き……気をつけたまえ」
やはり占いとは当たらないものなのか……『あの事件』の時のように。
しかし今日の私は我慢しっぱなしである。
私は少女の背中に『ネコネコアザラシ……』と呟こうとして止めた。
『ネコネコアザラシ』が何かって?
そうだ今回は『ネコネコアザラシ』事件について語ろう。
これはとある占い師の物語である。
彼は何もない空間に物質を転送させてみせ、呪文を唱えて猫を殺してみせたのである。
そう。その呪文こそが『ネコネコアザラシ』なのである。
その事件で私は余命を宣告され、危うく死ぬところだった。
この『ネコネコアザラシ』事件を読み終えた後、読者諸君は占いについて、不思議な力についてどう思うだろうか?
是とするか?
非とするか?
どういう結論を出すのかはもちろん読者諸君の自由である。
ネコネコアザラシ……ネコネコアザラシ……