行こう内藤牧場へ
ニャースペーパー……猫の新聞。ニャトソンはニャン経新聞をとっている。
「頑張れナタリー!」
「あなた!」
私は獣医の外からガラス越しにナタリーを応援した。
「頑張れ!」
「うーーん!」
ああ神様。
どうか私に苦痛を与えてください。
ナタリーを楽にしてあげてください。
「ようし!産まれたぞ!」
「!?」
「ハァハァハァ……」
「……産まれた?」
「そうだ。ニャトソン。君も今日から父親だ」
「あなた……」
ナタリーが赤ちゃんを見せてくれた。
立派な雄猫だ。
「ははっ……なんて小さい。煮玉子一個分じゃないか。お疲れ様! ナタリー!」
私は肉きゅうをブンブンと振った。
産後の雌猫は気が立っている。
赤ちゃんに近寄れるのはもう少し先になるだろう。
「赤ん坊を好物に例えるなよ。それで? 名前はどうするんだい?」
「……?」
「おいおい頼むよ! 名前を考えていなかったのかい!?」
「しまった……」
ここまでぬけていると逆に笑える。
名前を考えていないとは。
なにがよいだろう?
頭がよさそうで、健康に育ちそうで、皆に慕われるダンディーな名前……そんな名前がいい。
「しかしコッコ氏が死んだその日にこうして新しい生命が生まれる……皮肉だね」
「むっ!?」
「……なんだい?」
「それだよ!」
「それ……? まさか君!」
「そのまさかさ」
なんだ最高の名前があるじゃないか。
「『コッコ』だ!」
「コッコ?」
ナタリーにも聞こえたようだ。
「そうだ! その子の名前さ! いいかい? ナタリー?」
「あなたがつけた名前なら反対するわけないじゃない」
「決まりだ!」
私は肉きゅうでガラスをバンバン叩いた。
「ようこそコッコ! この世界へ!」
……
さて。
今に戻ろう。
「明智コッコ郎ね……」
私は万年筆をクルクル回しながらニャースペーパーを読んでいた。
記事にはこう書かれている。
『少年ニャー探偵『明智コッコ郎君大活躍。ひったくりを逮捕!』』
「ふむ……」
「コッコはあなた似の優しい子に育ちましたね」
「ナタリー。それを言うなら君だよ。コッコは私たち自慢の息子だ。ところで煮玉子はあるかい? 小腹がすいたよ」
「あら? ごめんなさい。玉子を切らしてるの」
「それはいけないな。買ってこないとね。すぐにでもヘネコプターに乗ってゆこう。『内藤牧場』へ」
内藤牧場は気弱な青年と奇跡的に病気を乗り越えた老婆が営む牧場である。
「あそこの玉子は最高さ」
私は万年筆を机の上に置いた。
2015年。ニャーランド誌掲載。
『イカ刺し山ダンディー』
完。
次話はオマケ




