近づく別れ。
それから嵐のように次々と事が運んだ。
諏訪間ミートのニュースはテレビや新聞で大きく報道されたので読者諸君もご存じの通りだろう。
大人数の関係者たちが逮捕され、その中には内藤も含まれている。
そして……
「世話になったな」
コッコ氏はニャームズに酌をした。
一段落した私たちはまた、コッコ氏の鶏小屋で酒を飲んでいた。
「いえ、鈴ちゃんを危険な目にあわせてしまいました」
「なに。結果オーライじゃよ。内藤は逮捕されたことで苦悩から救われたんじゃ。それにお主は実に多くの命を救った。行動範囲の狭いワシにはとてもできんことだ。まぁ鈴ちゃんのボケも治ったことだし……ワシもそろそろ遠出もするかもな? ワッハッハ!」
コッコ氏は嬉しそうだった。
鈴ちゃんのボケは治ったし、内藤もいなくなったのでまた自分の出番だと張り切っているのだろう。
「150年も生きているというのに、まだまだ生きるのが楽しくて仕方ないわ! 未来は明るい! ……おっと! 隠れろ!」
「おっ!」
「はっ!」
ガサゴソと音がし、鈴ちゃんが鶏小屋に入ってきた。
私とニャームズは素早く隠れ、様子をうかがった。
「コッコ……」
「クックドゥルードゥルー……」
なぜか悲しげな鈴ちゃんと普通の鶏のフリをするコッコ氏……
そこで私は信じられない会話を耳にした。
「内藤君ね……結構長く帰ってこれないみたい……私はねぇ……余命いくばもないおばあちゃんだけど、彼が帰ってくるまで生きていたい……彼を迎えてあげたいんだ。生きていたくなったんだよ」
「……」
「あんたとは長い付き合いだ。あんたは有り得ないほど長生きな鶏だ。あんたは中国で食べれば不老不死になるという鳥と言われてたんだよね? あたしはね、そんな話信じないよ。だけどね? ほんの僅かな可能性にもすがりたいんだ……わかるかい?」
「コケッ……」
勘の鋭いニャームズとコッコ氏は何が言いたいのかわかったのだろう。
目を見開いた。
「ニャームズ? 鈴ちゃんはなにを……?」
「そんな……これからだろう? 生きる希望に燃えていたのに……どうしてニャンダイチといい、コッコ氏といい僕が超えなきゃいけない男たちは早くに命を落とさなきゃならないんだ?」
「命を落とす……? 誰が? コッコ氏がか? 何を言っているんだニャー……」
「明日。私はあんたを喰う」
「……え?」
鈴ちゃんはそう言った……コッコ氏との別れが近づいていた。
「ふぅ……いやはや、まいった……」
鈴ちゃんが去ったあと、私はコッコ氏に走り寄り、ある提案をした。
「逃げましょう。食べられることなんてない。あなたは生きるべきだ……」
まだまだ彼には教えて欲しいことが山ほどある。
「ニャトソン。これは僕たちがとやかく言える問題じゃない……コッコさん。どうなさるのですか?」
ニャームズがそう言うとコッコ氏は膝(?)を叩いて立ち上がった。
「分かりきったことをきくでない。突然だがワシは明日、死ぬことになった。短い間だったが世話になったな」