諏訪間ミートwar
猫パンチ回
鈴ちゃんは諏訪間ミートに向かいゆっくり進んでいた。
(内藤君がくるようになってから頭がスッキリしてきたみたい……)
鈴ちゃんのボケは回復に向かっていた。
さらに、それに伴い色々なことを思い出してきた。
(そうだ。あたしは病気だ。余命を宣告されて……それで頭がおかしくなったんだ……)
「……」
(いつ死んでもええと覚悟を決めたが……命が惜しくなった)
まだもう少し孫のような内藤と楽しい時間を過ごしたいと思った。
(今は内藤君を悪い人から助けなくちゃ……)
……
「いつもご利用ありがとう」
「いえこちらこそ」
船から降りてきたモリニャーティーと諏訪間正は握手をした。
「家畜30人でよかったかな?」
「ええ」
『家畜』……モリニャーティーが拉致した外国人……諏訪間は労働力として彼らを買っていた。
(一度買ってしまえば一生給料を払わず死ぬまでこき使える……こんないいことはない。彼と仲良くなってよかった)
今やモリニャーティーは世界中の悪に求められる悪のカリスマだった。
(すごい男だ……)
「また困った事があったら呼びたまえ」
……
「こんにちはー……サインを……留守か? あっ?」
諏訪間ミートを訪れた内藤は山道に消えていく外国人と諏訪間正を見つけた。
(社長……? なんだろ?)
……
「こいつが密告しようとしたのか?」
「んー! んんっ!」
両手を縛られ、猿ぐつわをされた男が泣きながら首を振っていた。
「どうしますかボス? やりますか?」
「んー!」
諏訪間はニヤニヤと笑い男を見る。
「そうだ。私がやろう」
「ボスが?」
「一度人を殺してみたかった。なーに家畜を何千匹と殺してきたんだ。大丈夫だろ。それにこいつらは家畜だ」
「……!?」
男は絶望と恐怖が入り混じったような顔をしていた。
(たまらんな……しかしバカだなこいつは。さすがに殺すわけはないだろう。私は諏訪間ミートの社長だぞ? 少し痛めつければまた従順な家畜に……)
「んがーー!」
逆上した男が猿ぐつわを噛みちぎり、諏訪間の足に飛びかかり噛みついた。
「ひぎっ!」
「ボス!」
「てめ……てめぇ! 家畜が人間様噛んでんじゃねぇ!」
「ガッ!」
「あっ……しまっ……」
諏訪間は鉈包丁を思い切り男の頭に振り下ろした。
「……」
男は頭から血を噴いて倒れ絶命した。
「ボス! なんてことを……そこのお前! 待て!」
鉈包丁の男が走り出した。
「ど……どうした!? 誰かに見られたか!?」
(地位が! 名誉が!)
しばらくすると男は内藤を羽交い締めにして戻ってきた。
「つけてきたみたいですね。ボス。こいつは?」
「内藤じゃないか……」
(どうする……どうする……ころすか? 内藤は正社員だ……突然消えたらマズい……そうだ!)
「内藤……お前も共犯だ」
「えっ? ……いゃああ!」
諏訪間は血まみれの鉈を内藤に手渡した。
「この死体を埋めてこい。そうしたら命は助けてやる」
「そんなこと……」
「ここで死にたいのか?」
「……」
内藤は恐る恐る鉈包丁を受け取った。
「ははっ……包丁じゃ時間がかかるな。丁寧にやれよ? あとでスコップを持ってきてやるよ」
……
(ちょうどいい……)
諏訪間は自室で煙草をふかしていた。
(家畜のくせに生意気な奴らがいる……生かしておいても金がかかるだけだしな。殺して埋める……いいじゃないか。最終的な処理はモリニャーティーさんにお任せしよう……)
「ボス……」
鉈包丁の男である。
「なんだ?」
「実はあの時、内藤は『鈴』という老婆と山道で出会い、一緒にいたそうで……」
「なにっ!?」
「いえ……内藤の遠い遠い親戚で、あの辺りはその老婆の土地のようで……」
「殺せそいつを! いや駄目だ……土地に査察が入ったら……内藤の奴!」
「落ち着いてくださいボス。老婆はすでにボケています。そうでなければすぐに警察に行くじゃないですか」
「あっ……そうだな」
(私らしくもない……)
「私にプランがあります。老婆は数日に一度、買い物のためその山道を通ります。それを内藤にやらせます。親戚ならそれも不自然ではないでしょう。次にモリニャーティーさんがくるまであの土地を封鎖します」
(なるほど……)
「それまでのご辛抱を。大丈夫。あそこに近づく奴は私がミンチに……いや、『廃棄肉』にしてやりますよ」
「廃棄肉? ……フフっ……頼りにしているぞ……」
……
諏訪間ミートに向かう鈴ちゃんは全てを思い出していた。
(諏訪間ミートの社長が人を殺し、内藤君が埋めていた……内藤君は脅されているに違いないわ。あの子は悪い子じゃ……)
「あら?」
「あっ!」
「えっ!?」
鈴ちゃんはニャームズとニャトソンの視界に入った。
「猫?」
……
「鈴ちゃん!?」
「なぜここに!?」
信じられないことに鈴ちゃんがいた。
「なぜ?」
「ニャトソン! どうやら考えている暇はなさそうだ!」
「ん!?」
ニャームズが牧場を肉きゅうで指した。
「うおおぉぉ!」
「乾君だ!」
乾氏が大勢の外国人に追われている。
「どうやら彼は何かやらかしたようだ! 見ろよニャトソン。連中の必死な顔! 肉きゅうを握れ! 彼女を守れ! 大立ち回りになりそうだぜ!」
「えらいことになったなぁ!」
戦いのゴングがなった。
……
「らぁっ!」
「カハッ!」
乾氏も開き直ったか、巨体に似合わぬ軽やかな足技で次々と外国人をなぎはらっていく。
「ブーメニャン……」
「ナニッ!」
「フック!」
「うわぁぁ!」
ニャームズはニャームズで一撃必殺の『ブーメニャンフック』で一気に数十名をふっ飛ばした。
「コンニャロメ! コンニャロメ!」
「柔らかい!……ガクッ」
そして私は呆然とする鈴ちゃんを守るため、吹っ飛んできた男たちの顔面に肉きゅうをめり込ませ、トドメを刺した。
「どんどんこいっ! できれば気絶寸前の奴! どんどんこいっ!」
ドガッ!
バギッ!
グシャッ!
肉が叩かれ、骨が軋む音が響く……
いやはや、乾氏もなかなかだが、やはりニャームズが凄い。
「ニャッパーカット!」
「ぁ~……」
「あーー!」
グチャッ!
ニャームズのニャッパーカットでひとりの男が空に垂直に飛ばされ、垂直で落ちてきて地面に頭が突き刺さった。
……大丈夫だろうか?
「キリがない!」
「むむ……」
それでも多勢に無勢……我々が押され始めた時、圧倒的な覇気と共に絶対覇者の声が響いた……
『かしこまれぃ!』
「!!!?」
私は二本足でピンっと立って動けなかった……逆らえば死……そう感じさせる恐ろしい声だ。
「……」
「……」
かろうじて動けるニャームズを除いて、我々は全員直立不動の体制となった。
「あら?」
「一歩も動くなお前たち……鈴ちゃん。迎えにきたよ。ここは危険だ」
紫色のマントを羽織ったコッコ氏だった。
「おばあちゃん……」
「むっ!」
内藤がオーラをかき分けながら歩いてきた。
「信じられん……」
そして鈴ちゃんの前に倒れた。
「……騙してごめんなさい」