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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
イカ刺し山ダンディー
82/203

青空講義

 この日、私とニャームズは山の広場で待ち合わせをした。

 広場には既に多くの動物たちが集まっている。

 もちろん無表情な顔を正面に固定したまま動かないシープ太郎とヤギサワもいる。



「やぁなんだニャトソンその格好は?」


「君こそ」


 内藤が次に鈴ちゃんの所にやってくるまで数日ある。

 そこで私たちは昼間コッコ氏が行っているという『青空講義』に参加することとなった。


「ワイシャツにサスペンダー。茶色のベレー帽……外国のカメラマンか?」


「筆記用具にノートもあるよ。レトロになったもんだよ。ニャーバード大学以来だ。しかし、そういうニャトソンこそそれはなんだ?」


 私は『ガクラン』に『ガクボー』『カタカケカバン』を身につけていた。


「これが学ぶ時の正装だとある男たちから聞いたんだ」


 その男たちは『人生とは長いようで短い。短いようで長い。まるでゴムのようだ』と言い。

 私はその時、ゴムぱっちんをやらされた。


「……なにもいうまいよニャトソン」


「さぁさぁ! 諸君! 本日の講義もおもしろいぞ!」


 ニャームズが眉をひそめるとコッコ氏がやってきて黒板を叩いた。


「グッモーニン・エブリワン。さてさて今日は……」






 コッコ氏の講義はどれも素晴らしく、150年の重みがあった。

 歴史、国語、道徳、人間語……


「その時、坂本と中岡は……」


 軍鶏と間違われ買われ、坂本龍馬暗殺の現場を実際に見たというコッコ氏の話は私もニャームズも引き込まれた。


「……というわけでメスとはオスがとてもかなう相手ではなく……」


 コッコ氏も150年の間、色々な恋をして子育ても経験があるそうだ。

 これは私は前のめりになって聴き、ノートを取った。


「人間は育てて食べる。育てられた環境によってはなかなかの一生かもしれん。それに小さな者は食べずに逃がす。我々は腹が減ったら食う。どんな小さな子供でも。しかし喰われずに生き残るかもしれん。……過酷な野生の世界でな。さてさて諸君。なにをどう食べるのが正解かな? これはワシにもさっぱりわからん。わかるのは命に感謝し、考え続けねばいけないことだけじゃ。意地悪なワシはこの問題を君たちに考え答えを導き出してほしい。何をどう食べるのが正解か……ワシからの宿題じゃよ」 


 コッコ氏は意地悪に笑う。


 隣の席のニャームズを見ると『全くわからないね』と彼は小声で呟いた。



……



「……で、そいつはお陀仏よ」


「素晴らしい……その人は誰よりも命を大切にしていたのですね……まさに愛だ」


 コッコ氏の部屋での深夜の特別講義……コッコ氏は『自分の命を投げ出して少女の命を救った青年の話』

を聞かせてくれた。


「とんでもないよ。彼は命を粗末にした。殺人者と同じだ」


「えっ?」


 コッコ氏はどぶろくを茶碗に注いで飲み干した。


「自分の命をな……そうじゃろ? 若造?」


 ニャームズを見るとうんうん頷いていた。

 ショックだった。

 私はナタリーと生まれてくる子供の為なら命を捨てることもできると思っていた。

 それが命を粗末にすることだったなんて。


「ワシにはわからん。ワシはこの年になっても生きたくて仕方がないからな。自分の命が愛しくてたまらん。もし私が誰かの為に命を捨てるとしたら……いやいやありえん。ワシは二人が助かる道を探し出す。そんなことをしたら是非後世に『愚かなことをしたオス』として伝えて欲しいものじゃ。うむ。それが『愛』じゃろ? これもわからんがの。ハッハッ!」


 コッコ氏は大分酒が回っているようだった。


「食、命、愛……こればかりは何年生きても答えがでない……『それぞれ』、『考えても仕方がない』で片づけてはつまらんじゃろ? そうだ! これも君たちへの宿題としよう……ワッハッハッ! おや? 朝だな……」


 鶏小屋に朝日が差し込んだ。

 コッコ氏は咳をし、襟元を正して杖を突きながら外へ向かった。


「どちらへ?」


「鈴ちゃんを起こす。鈴ちゃんは一度寝ると私の声でしか起きない。起こしにくる人もいないしな。これは私の大事な仕事である」


 私たちもコッコ氏の後に続き外にでた。


「ンッ! ンッ! あー……」


 朝日を浴びるコッコ氏は実に神々しくダンディーであった。

 私とニャームズは彼のこの姿を一生忘れないだろう。 


「ンッ! アッ!……ゆくぞぃ」





  ……




『クック! ドゥルー! ドゥルー! ドゥー!』






 コッコ氏はそう三度鳴いた。


 イカ刺し山に朝がやってきたのだと思った。


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