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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
イカ刺し山ダンディー
81/203

クラシカル

 コッコ氏はゆっくりと語り出した。


「鈴ちゃんはもうボケとる」


「ボケ?」


「うむ。完全なボケではないが、物忘れはひどい。自分で買い物に行かなくなってからさらにひどくなった」 


「以前は買い物は自分で?」


「うむ。杖をついてな。えっちらおっちら商店までいっておった。それが最近『内藤』という男が雑用から買い物までやるようになってな」


「内藤……その男は鈴ちゃんの親戚かなにかで?」


「本当かどうかわからんが遠縁らしい」


「その男がなにか悪事を企んでいるようだと?」


「……いるのかの? わからん。無害な……ただの親切な若者かもしれん。鈴ちゃんに恩を売っても財産なんて山の土地の一部じゃし……内藤は財産に関与できるほど近い親戚ではない」


「ははぁ……」


 話を聞く限り、年寄りの身を案じた親切な若者としか私には思えなかった。


「なにか気になることが?」


「それがの……内藤は『○月○日の買い物で山で何か見なかったかなぁ?』と必ず聞くんじゃよ」


「へぇ」

 

それは少し奇妙だ。


「その日、芸能人がいたとかいなかったとか……そういっておるがワシには適当な理由をつけているように思えたな」


「……む。ニャトソン君。一応メモしておきたまえ。小説のネタになるかもよ? 僕のノートPCをかしてあげる」


 ああそれは助かると肉きゅうを伸ばしたらバシッと杖で叩かれた。


「いにゃい!」


「同じく!」


「バカタレどもが! こんな物使うな! これくらい覚えろ! 全く……最近のヤングキャットは……記憶力も根性もない……ほれこれを使え」



「はい……ありがとうございます」


 裏が白紙のチラシと小さな鉛筆と消しゴムのかけらを渡された。

 表には『激安鶏肉○○円』と書かれていた。



「いや、コッコさん。時代は常に動いているのです。いつまでもこんな物を使っていたら時代に取り残されて……いにゃいって!」


 ニャームズはまた頭を叩かれた。

 すっかりヤングキャット扱いされている。


「生意気たれるな! 時代とはそんなに偉いか? 機械がそんなに偉いか? ん? ワシからすればお前らは時代においてかれやしないかと怯えついていく金魚の糞じゃ! 勘違いするなよ? 時代は……未来はワシらがつくる! 時代を従わせろ!」


 なんとまあむちゃくちゃな。


「機械にできることが増える度、人間たちはできていたことができなくなる。愚かなことじゃ。主従関係の逆転じゃ! アホたれが! 今は機械が人間を支配しとる。おぞましいことにほとんどの人間はそれき気がついていない。自分たちが機械を従わせているとおもうちょる」


「……」


「……」


 いやはやまいった……コッコ氏はニャームズ以上の演説家だ。


「例えば車! 携帯! あれをみろ! 人間のが上か? 違うじゃろ? 人間は携帯ストラップ! 人間は車の付属品じゃ! 奴らは『自分たちがいないと人間なんてなにもできやしない』と笑っておる! いいか! 物や機械とうまくやっていく唯一の方法を教えよう。それは『友となれる者とだけ仲良くやること』だ! 原発はどうだ? 自然はどうだ? おごるなよ! あれは人間の手にはおえぬ! 従わせようとするだけ無理じゃ! 上下関係を無視すると必ずしっぺ返しをくらう!」


 話がどんどん大きくなっていく。

 第一私たちは猫だ。


「はぁはぁ……話がずれたな。つまりじゃクラシカルな物は美しい。様式美がある。美しさは大事じゃ。審美眼は常に磨いておけ。美しくないものは便利でも使うな……とは言わんが控えろ。使えぬものをバカにするなんてもってのほかじゃ」


「はい」


「肝に銘じておきます」


「おほん……鈴ちゃんはワシにとって大事な人……戦中、戦後を共に生きたまさに戦友よ……ワシは彼女のそばを離れられんからおぬしらに頼む」


「ふーんなるほど。うっ!」


 コッコ氏はギロリと私をみた。

 適当な相づちかどうかを見極めているようだ。


「ふん……頼んだぞ」


 よかった……今度は叩かれなかった。

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