不死鳥
「準備はいいかい? ニャトソン?」
「いいわけないだろう……」
私たちはヤギサワからコッコ氏の住まいを聞き出し、イカ刺し山の民家にきていた。
「不意をつかれたからね。不意を突き返さないと僕の気が済まない。攻撃は最大の防御だからね」
ニャームズは変なところでプライドの高いオスだった。
「ふむ……あれがコッコ氏の飼い主だろうか?」
縁側でひなたぼっこをする老婆がいた。
「コッコ氏はどこに……にゃ!」
「……!?」
放たれるニャームズの裏拳……いつの間にか背後にいたコッコちゃんは杖でニャームズのそれを受け止めた。
「ふん……先手を取りに来たか……ますますやるな。気に入った。依頼をしよう。しかしこの杖が刃物だったらお主は死んでいた。なかなかやるようじゃが、まだまだヤングキャットじゃな。ワシからすれは赤ん坊のようなものじゃ」
「……」
これはニャームズにとってこれ以上ないほどの屈辱だろう。
二度目の敗北を喫した上にヤングキャット扱いされたのだ。
「コッコさん……僕は若く見えますがこうみえて50間近でしてね? ヤングキャット扱いはごめん被りたい」
ニャームズがそう言うとコッコちゃんはふぁっふぁと笑ってなんとニャームズの頭をひっぱたいた。
「いにゃい!」
「50そこらで何を偉そうに! やはりヤングキャットじゃないか。ワシは150年は生きとる。お主は大正時代のワシの友によう似ておるよ。こっちにこい。茶をしんぜてくれよう。そっちのぽっちゃりもはよこい」
「なっ……!?」
「嘘だろ……?」
150歳の鶏……私はそんな鶏がいるのかという驚きとやはり、自分はぽっちゃりなのかというショックを隠しながらコッコちゃんについていった。
……
「あがれ」
「これは……見事ですな」
隠し扉の向こうのコッコ氏の鶏小屋は天井が高く広く、甲冑や日本刀、書などが飾られていた。
「すぐにできる」
コッコ氏は座布団の上に正座するとなれた手つきで茶をたてはじめた。
「今も昔も金持ちの考えることは同じよ……ほれ」
「はい?」
コッコ氏は茶を私たちの前に置いた。
「不老不死よ……ワシの最初の名は『スーフェイロン(四飛龍)』金持ちによって『不存鶏(不老不死の鳥)』としてこの世に生み出された……食えば永遠の命が得られるとして仲間はみぃんな食われたよ。ワシを残してな」
「それはまた……」
人間というのはどこまでも強欲なのだと私は思った。
「鳥を食った人間は不老不死になることなく年老いて死に、ワシは150年も生きている……なんと皮肉なのだろうな?」
「……」
「……」
「まぁ今は『コッコちゃん』として気楽に飼われているがの。ほれ、茶が冷める。早くのみなさい」
「あっ……それでは」
「いただきます」
私はニャームズの作法を真似しで茶を飲んだ。
「さぁて依頼のことなんじゃが……それは飼い主の『鈴ちゃん』のことなんじゃ」
鈴ちゃん……先ほどひなたぼっこしていた老婆のことだろうか?
「その方がどうしました?」
「どうしましたというわけではない……いや……怪しい男がいてな? いや……これも怪しいというかなんというか……?」
「……?」
ずいぶん歯切れが悪くなった。
「つまりだ……その男の身辺調査をして欲しい。なにもないに越したことはないのじゃがな」