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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
生命と廃棄物の間
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生命と廃棄物の間

 ケビンの死骸がこつぜんと消え、それからの一週間。

 ニャームズの不誠実な態度に激怒した私は彼と冷戦状態にあった。


「ニャームズ……ケーブから聞いたよ。上原の車が返ってきたそうだ。修理に出していたみたいだね。ケビンの毛も見つかったようだよ。これで犯人は上原に決定かい?」


「ふむ……君も頑固だねぇ……一週間ほとんど口も聞かず……」


「君の口から説明があるまでは……ね」


「怒らないなら話をしてもいいよ」


「怒らない」


「わかった公園へいこう」





「まず始めにいうが……我々動物が車にひかれて死んだ場合……人間の世界ではゴミという扱いになる」


「なんだと!?」


 私は声をあらげた。


「ニャトソン……怒らないと言ったろう?」


 怒るなと言うほうが無理な話だ


「なぜゴミだ!? 生きていたんだぞ!?」


「交通の妨げになるからじゃないかな?」


「車や人間がそんなに偉いか!? それならばボブの言うように他の動物や虫の糧となり、土に還るほうがよっぽどいい!」


「一旦落ち着こうニャトソン。話が進まないよ」


「そ……そうだな」


 私は何回かニャン呼吸をして落ち着くことができた。


「人間にとって地球上全ての場所は自分の物。邪魔なものはゴミ。役に立つなら使う、可愛いなら飼う、美味いのなら食う……僕も人間に嫌気がさしたことがあるよ」


「じゃあなぜ君は人間を……」


「その話は後にしよう。今はケビンの話だ」


「……そうだな」


「猫や犬はひかれて死ぬとゴミになる。あの駐車場にはゴミが一つあった。いいね?」


「続けてくれ」


「ゴミが落ちていた場合どうするか……清掃局の仕事になるね」


「清掃……」


 本当にゴミなのだと思った。


「電話ひとつで片付け終了……しかしなぜか犯人はケビンを移動させた……」


「なぜだ?」


「そこが私有地だった場合。処理は責任者がやらなくてはならない。この場合。管理人の上原だね。上原は電話をせず、ケビンを他人のパーキングエリアに移動させた」


「なぜ?」


「他人のパーキングエリアに置いておけば責任転嫁出来ると思ったのだろう」


「むちゃくちゃだ」


「むちゃくちゃだね。そんなことをしても意味ないのに。その人がひいた証拠はないし、管理責任を問われるのは自分だろうしね」


「上原はそれに気がついた?」


「多分ね。それで次は駐車場の塀を越えた草むらに慌てて移動させた」


「管理責任から逃れるため?」


「そう。だが残念ながら駐車場を出たからといって管理責任から逃れられるわけではない。道路でなければいけない」


「道路? なんで?」


「公道……そこに置いておけば無料で処理してもらえるんだ。管理責任も問われないし」


「だからケビンの旅も今日で終わりだと言ったのか?」


「そうさ。事実死骸はなくなった。処理されたんだね」


「……君はいつから全てわかっていたのだ?」


「移動順番を聞いてからかな……あとは赤いリング…かな…」


「赤いリングで何がわかった?」


「ニャトソン君……野良犬がひかれた場合、警察が動いてくれることもある……だが犯人はそれをしなかった。なぜか? それはケビンを飼い犬だと思ったからさ


「飼い犬だとなにが違う?」


「飼い犬が引かれた時は飼い主が管理責任者を訴えてくる事がある……それはどうしても避けたい。だが警察に頼ったら飼い主に連絡がいくだろうしね」


「……それがケビンを移動させた本当の理由か……」


「飼い犬でも管理責任以外はうまいことやれば管理人に責任を押し付けられる。あの駐車場は契約者以外立ち入られない。修理に出された車……これで僕は上原を犯人だと疑った」


「せつないな……ボブにはとても話せないな」


「だから言ったろう?」


「そうかなるほど……君の気持ちがわかったよ。すまなかったな……」


「だがね。ニャトソン。なにも知らなかった契約者が犯人だという可能性もあるし、外部の人間が駐車場に死骸を遺棄した可能性もある。我々は人間のように調査は出来ない……だからあの駐車場が事件発生現場かは断言できないしね」


「しかし車の毛が……」


「……」


 私にはなんとなくわかった。ニャームズは本当は犯人などいないでほしいのだろう。


「さぁ帰ろうぜニャトソン。フジンが心配しているよ」


「そうだな……」


「ニャトソン君」


「うん?」


「僕たちは……【生命と廃棄物の間に生きる者】なのかもしれないな」


「なんだい?それは?」


「少し格好つけただけさ」



 ボブが上原に噛みつき、保健所に連れていかれたと聞いたのはそれからしばらくたってのことだった。


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