コッコちゃん襲来
猫鶴……猫で初めてウイスキーを作ったオス。愛称は「ニャッさん」
猫ドラ……猫の朝ドラ。近年のヒット作は猫のたまが海に潜る「たまちゃん」
「にゃにゃにゃ!」は猫流行語大賞にも輝いた。
それからの毎日は実にのんびりしたものだった。
日が昇ったら起きて沈んだら酒を飲んで寝るのだ。
私はニャームズのフィールドワークに付き合い、彼がノートパソコンになにやら打ち込んでいるのをボーッと見ていたり、彼が公衆電話をテレビ電話に改造するのを手伝ったりした。
シープ太郎とヤギサワの店にも毎日通った。
彼らのテクニックは素晴らしく、ニャームズは新しいスーツの完成を心待ちにしていた。
「さぁシープ君。ヤギサワ君どうぞ」
「メェ~」
この夜もシープ太郎とヤギサワを加えての大宴会である。
「このウイスキーはね。ブラックネッコといって僕の友達の猫鶴さんが作ったものなんだよ。どうだい?」
「……」
「う……メェ~」
「それはよかった」
シープ太郎とヤギサワはただ一点を見つめ、顔を微動だにせずブラックネッコをごくごくと飲んだ。
「ほら、猫鶴17年もあるよ。飲みたまえ。猫鶴も出世したものだ。ニャッさんだなんて呼ばれていたのになぁ。そろそろ猫ドラになったりしてね」
「……」
「これも、う……メェ~」
「確かにうまい」
私はテレビを観ながら酒を飲んでいた。
それにしても……
「猫ほど人間に愛される動物もないな……」
テレビでは猫のキャラクターをよく見る。
今もテレビで猫のキャラクターが何やらヨーデルで何かがウォッチだと歌っている。
私はそれをみてゲラゲラ笑い、酒で頭がポーッとした。
「二匹とも…静かに!」
「メェ?」
「ん? どうした?ニャームズ?」
「急に虫の声が……しなくなった……それに」
「どうしたと……うぉっ!」
この段階でやっと私も凄まじい殺気に気づいた。
「まさか……モリ・ニャーティー? 違う……それ以上の殺気だ……」
ニャームズが怯えている……こんなニャームズを初めてみた。
「そこの細身のお主はなかなかやるな。そっちのぽっちゃりも一応気づいたようだな」
「誰だ!?」
いつの間に!? 玄関には真っ赤なガウンを羽織った紫のトサカの鶏(?)が杖を持って立っていた。
「……どのようなご用件で?」
「くくっ……そうおそれるな……お前たちがどれだけできるか今日はテストついでに挨拶に来ただけよ」
鶏がそう言うと殺気が消えた。
私とニャームズは息を吐いた。
「ふぅ……」
「ぶはぁ……」
「シープ太郎とヤギサワもおるのか……飲みすぎるなよ。お主らのテクニックは動物の宝だ。ワシのネクタイはできたか?」
なんとシープ太郎たちと鶏は顔見知りのようである。
シープ太郎は首を横に振った。
「そうか。腕が鈍る。飲みすぎるなよ。さて……名探偵のニャームズ君。私の名は『コッコちゃん』……いずれ依頼を頼むかもしれん。その時は頼むよ。邪魔したな」
恐ろしい見た目に似合わぬ可愛い名前……コッコちゃんは帰って行った。
「コッコちゃん……驚いたな……あんな鶏がこの世にいるとは……」
コッコちゃんが去ったあと、私たちは五分ほど言葉を失った。
「またくると言っていたぞ? あと私はぽっちゃりなのか!? やせた方がいいのか!?」
「ニャトソン君……それはどうでもいいだろう……」
「痩せなきゃだめかな!?」
「だ……メェ~」
「やっぱり!」
ヤギサワとシープ太郎は相変わらず無表情で酒を飲んでいる。
一番の大物は彼らなのかもしれない。