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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
アンコー・ストリート・ジュラシックパーク
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マリオの記録。

『トゥーアワーズ。トゥーアワーズ(二時間)でここは遊び場に早変わりだ。そうしたらサッカーをやろう』


 オグマは逆向きのピースを僕とトッティに向けた。


『オグマ。それは無理だよ……草を抜いて整えて……2日はかかるよ』


『それはお前ら凡人の話だ。俺は『ミラクルオグマ』だぞ?』


 20年前……オグマは僕とトッティにとってヒーローだった。

 いつだってカッコいい『ミラクルオグマ』だったし、そうであって欲しかった。


『俺はお前らとは違う。I can do it(俺ならできる!)だ』


 オグマは僕たちが卒業する年の夏にアンコーストリートに引っ越し、アンセム小学校にやってきた。

 将来を有望されたバスケットプレイヤーだったオグマは田舎に住むなんの取り柄もない僕たちを友達だとは認めてはくれなかった。


『足の怪我さえなければこんな田舎でお前らのような雑魚とつるまない』


 オグマは1日に5度はこうつぶやいた。

 足を怪我して未来のトップ・アスリートを育てる学校から転校させられたのが余程屈辱だったのだろう。


『俺の言うことに逆らうな


『ファーストネームで呼ぶな』


『決して俺を自分たちと同格と思うな。ましてや友達だとは思うな』


『俺に嘘をついたら殺す』


 オグマと遊ぶ為にはたくさんのルールが僕たちに課せられた。

 でもそれでよかった。

 オグマの奇跡の立会人になれるのならね。


『本当に二時間で荒れ地がグラウンドになっちまった!』


『すごいや!さすがミラクルオグマ!』


『当然だ』


 オグマは秘密を握った大人に芝刈り機で草を刈らせ、ポルノグラフィティで釣った男に地面を整備させた。


『さぁサッカーをやろう。お前ら2人と俺1人だ』


『『うん!』』


ミラクルオグマ……僕たちのヒーロー……。






『タイムカプセルぅ?』


 アンセム小学校卒業間近のこの日、興奮した僕たちをオグマがバカにしたように睨んだのを覚えている。


『教室にアンコー像が保管されてるだろ? あれに将来の夢を書いた作文を大人に内緒で入れちゃうんだ。卒業記念にさ。面白そうだろう?』


『それで10年……いや20年経ったら3人でそれを見るんだよ』


 オグマはため息をついてこう言った。


『バカじゃないのか? 20年後、どうやってアンコー像を持ち出すんだよ? それに俺が20年後もここにいると思うな。俺はここを卒業したら都会に出るし、二度とここには戻ってこない』


『……』


 あれは意地だったんだろうなぁ……自分ではグッドアイデアだと思っていたし、オグマとの思い出が欲しかった。

 何時間も説得したらオグマは紙切れに『俺は世界を巡り、誰よりもビッグな男になる!』

と書いてくれた。


『俺のは夢じゃない。約束された未来だ。なんだお前らの夢は? しみったれてやがる』


『でへへ……』


 僕たちのドリームを詰めたアンコー像は翌日誰にもばれずに設置された。






 卒業後……僕とトッティはアンコーストリートに残り、オグマは去っていった。

 一度だけテレビでオグマがミュージシャンとしてテレビにでているのを見たけど……それっきりだった。







『笑いたきゃ笑えよ。散々偉そうなこと言って結局ドラッグで転落して都落ちだ』


 僕たちが30を過ぎた頃……

 マリスというドラッグに手を出し、芸能界から追放されたオグマがストリートに帰ってきた。


『オグマ。僕たちは君が帰ってきてうれしいんだぜ?』


『そうさ』


『こんなクソストリート……俺は……』


 その後、オグマはアルバイトを始めては辞めを繰り返し、気がつくとほとんど家から出ない半ひきこもりとなったんだ。

 あの頃のオグマは生ける屍だった。






『そうだよ。タイムカプセルだ……』


『うん? 手を動かせ。手伝えよトッティ。ボランティアとはいえ僕たちのショーを子供たちはきっと楽しみにしているんだぜ?』


 幼稚園でのジュラシックショーが間近に迫ったある日、図書館の恐竜図鑑の拡大コピーした恐竜シールをクレーン車に貼り付けている僕にトッティはつぶやいた。


『タイムカプセル? アンコー像の?』


『そうさ。あれを見ればオグマは立ち直るんじゃないかな? ちょうど20年たつし』


 トッティはラジコンヘリにプテラノドンの張りぼてをプロペラに触れぬよう被せた。

 器用な奴だ。


『しかし……』


 アンコー像は高所にあるし、オグマにそんな提案したら『同情してるのか? お前ら如きが?』とオグマが怒るに決まっていると僕は言った。


『それに誓ってもいいがオグマはアンコー像のことなんて忘れてるよ』


『だから黙ってやるのさ。お前のクレーンでちょちょいと……』


『ん~……』


 やってみるかぁ……





 

『あっ!』


『やっぱりなぁ!』


 前日、クレーン車の高さが僅かに足りず失敗したが、この夜はトッティの操作するラジコンがアンコー像を叩き落とし、アンコー像は哀れ地上に落下して割れた。

 しかし昨日といい今夜といい猫がニャーニャーとうるさかった。


『……結果オーライ?』


『……』


 いいさ。

 予想していた。


『……オグマは』


『……なんて?』


 懐かしい……タイムカプセルにしまった僕たちのドリーム……オグマのドリームは世界を巡りビッグになること……僕たちはしばらく無言だった。



『なぁマリオ。提案があるんだが……』


『偶然だな。僕もだ』


 僕たちにだって少しぐらい貯金はある。








『オグマこれ……君の作文だよね? 僕の家の物置にあったんだ。大丈夫。読んでないから……』


『お前も律儀だな……作文? ……ふん……』


 翌日、僕なりにできるだけ自然にオグマに作文を渡した。


『俺のドリーム……そうだったな……でもなぁ……金ないし……くそ! 世界の方から俺によってきやがれってんだ!』


『オグマ……』


 もうすぐ世界から君に寄り添ってくる。

 待っていろよと思った。







『変な声!』


『お前こそ!』


 お祭りの日、僕たちはピエロに変装し、トッティの店のパーティーグッズのヘリウムで声を変え、裏路地でオグマを待っていた。

 僕たちがなけなしの財産を全て使い切って買った世界一周チケット……普通に渡してもオグマは受け取るわけがない。

 オグマはこの時間。焼きたてのピザを買ってここを通るはずだ。

 これは野良猫や僕たちしか知らない。


『きた!』


『いくぞ!……お兄さん! そこでピザ買ったね!? レシートでくじがひけるけど一枚ひいてかない!?』


『へぇ……珍しいな? あんたらピザ屋の人間?』


『ま……まぁそんなもんさ! どうする! 一等は世界一周チケットだよ!』


『なにぃ!? 世界一周!? や……やらせろ!』


 オグマの顔色が変わった。

 しめたとおもったよ。


『おめでとうー! おおあたりぃ~!』


『うおぉぉ! やっぱり世界は俺を見捨てちゃいなかったぜぇ!!』


 無事オグマにチケットを渡せてホッとしたよ。


 




『どうだ? ん? お前らと俺とでは持ってる物が違う。これが世界にでてビッグになる人間とこんなストリートで一生を終える人間の違いだ。俺は選ばれし人間なんだよ!』


『素晴らしいよオグマ』


『さすがミラクルオグマだ』


 オグマはそれから毎日僕たちに世界一周を元気に自慢しにきた。


……嬉しかったね。


 ミラクルオグマ復活の兆しだ。


 もうそろそろ旅立ちの日……オグマが本当にビッグになったらいいな。








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