ピエロ
おカリ……猫のお金
「私が歩いていたのは光もほとんどあたらない裏路地も裏路地。あんな場所を歩くのは『オグマ』ぐらいなもんで……」
「……オグマ?」
「ああ……ピザ好きのただのクソデブダメ人間ですよ。親のすねかじってグータラ生きてます。さて。お祭りの日、その裏路地になんとピエロが二人店を出していました」
「ピエロが……二人?」
裏路地にピエロが二人……想像してみるとなかなかシュールで面白い。
「それが不思議な話ですか? 確かに奇妙ですね……」
「おぉっと。まだまだ。ピエロ二人はね。穴の空いた箱を持っていましてね」
「穴の空いた箱……?」
「何だったんでしょう? あれは? そこに先ほどいったオグマが現れましてね。ピエロ二人がオグマに声をかけ、箱に手を突っ込ませました」
「ははぁ。くじ引きだ」
「くじ引き?」
「ええ。お祭りの出店だったんでしょう。しかし奇妙だな……そんな裏路地でくじ引き?」
マスターは話を続けた。
「オグマが箱から赤い紙を取り出すとピエロがやたら甲高い声で叫びましてね。そのあとオグマもガッツポーズを取りました」
『くじ引きで当たりを引いたんだな?』
僕はそう思った。
「変な声のピエロだったなぁ……人間の声とは思えない……」
「変な声……多分ヘリウムガスでも吸ってたんじゃないでしょうか?」
「はいはいヘリウムね」
リッキーが僕の背中をさすった。
何だか皆の反応が冷たい。
ああそうだった。
僕は『ホラ吹きジョニー』。
ホラだと思われているのだ。
「それでね? オグマは『セカイイッシューだ!』と叫んでいたんです」
「セカイイッシュー? どういう意味だ?」
トーマスとリッキーが顔を見合わせた。
人語がわからないのだろう。
僕は信じてもらえぬこと前提で解説した。
「多分ニャー語で『世界一周』という意味だと思いますが……」
「セカイイッシューかぁ……なんだろうな? 土地名?」
「その喜びようからするととてつもなくおいしい猫缶じゃないか?」
「私にはさっぱり……」
「……」
案の定無視された。
これは僕にとって貴重な体験となった。
「恐竜と裏路地のピエロか……貴重な話を聞けました。二匹とも。今日の飲み代は僕が。お礼です。さて忙しくなるな。マスター」
僕は鹿撃ち帽を被り、コートを着てカウンターに三匹分のおカリを置いた。
「ありがとうございました。忙しくなるなって……こんな夜更けにお出かけで?」
「山と裏路地に決まってるじゃないですか? 調査がしたくてウズウズしてきたもので」
三匹はクスクスと僕をせせら笑った。
これも貴重な体験だ。
「しかしあれだな。鹿撃ち帽にコートで調査かい? まるでニャーロックニャームズ先生だ。気をつけろよジョージ。1メートル前後のプテラノドンはともかくブラキオサウルスはでかい。喰われないようにしろよ?」
「ん? 『1メートル前後のプテラノドン』?」
「そうだ。思ったより小さかったが……」
「なるほどね……」
恐竜と不気味なピエロ……この二つの事件に関係性があるとは流石の僕でもこの段階ではわからなかった。
「さあいくとしよう」