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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
マンボウ町の決闘
62/203

プロポーズ

「そうですか……まだ……」


「ええ……」


 彼女と夜のマンボウ町を歩く。

 あれから私は毎晩彼女のもとを訪れ、彼女と共にこうしてなにをするわけでなく夜の町をさまよった。


「なぜでしょう? なぜ主人は本を取り戻したのに元気がないのでしょう?」


 西岡氏は本を取り戻したというのに、未だ落ち込んだままらしい。


 いったいなぜだ?


「……」


「……」


 無言のまま柳氏が営む『柳沢桶店』の前を通り過ぎた。


「柳沢さんも元気がありませんね……」


「そうですね。人間のことはよくわかりませんがあの方も大変なのでしょう」


 そうなのであろう。

 黙々と風呂桶を作る柳氏の顔はどこか苦しげであった。

 この時代。風呂桶やおひつなどを作るだけで儲かるわけではないのだろう。


 しかし……通り過ぎたさいに『今月は変な外人の注文だけか……』と柳氏が呟いたのが聞こえたが、あれはどういう意味なのだろう? あとで辞書を引くか……


「ニャームズさん……」


「えっ!?」


 ナタリーが私に身を寄せてきた。 


「いけません。あなたは……」


 猫妻だ……猫妻なのだ……


「ニャームズさん。私を奪い去ってくれませんか?」


「……えっ!?」

 

 私が驚いて見せると彼女は寂しげに微笑んだ。


「冗談ですよ。ちょっとふざけただけです……」


 なんて健気なんだ。彼女を守りたい! 彼女を私のものにしたい! 我慢の限界だった。


「ナタリーさん!」


「あっ……」


 私は二本足で立ち、彼女を持ち上げるように抱きしめた。


「あなたをあのオスから奪い去ります。いいですね?」


 彼女は拒まない……そして頷かない……。

 それでも私は続けた。


「私はあなたを妻にしたい。私の妻になってくれ」


「えっ……!?」


 なるようになれ! せき止めていた恋心が洪水のように溢れだした。


「私はその……猫妻で……妊娠まででしていますのよ?」


「それがなんだというのです? もう一つお願いがあります」


「何でしょう?」


私はナタリーの腹を優しく撫でた。


「産まれてくるこの子の父親になりたい……私では駄目ですか?」


「ニャームズさん……そんな……そんな……私なんかをそこまで……」


「私なんかをだなんて言うのはやめてください。アナタは素敵な女性だ」


「ニャームズさん……」


「……返事を聞かせてくれますか?」


 ナタリーはここでやっと私を突き放した。


「考えさせてください……ニャームズさん。今夜はありがとうございました。そ……それでは!」


「ナタリー!」


 私は走り去るナタリーを追いかけることが出来なかった。


「ニャームズさん……か」


 そうだ。彼女が見ているのは私ではなくニャームズ……。


「それでも……」


 私はドーサツの本部に足を向けた。


 ブラカリの溜まり場を聞き出すために……


 デヴィッドに『決闘』を申し込むために……


「……ワシは取り返しのつかんことを……」


 柳沢桶店の前を再び通り過ぎると柳柳沢は何やら呟いていた。



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