妊娠
「で? 結局どうすんの?」
「どうするったってさぁ~……」
「情けねぇなぁ……本を盗んだのはいいが、売り方がわかんねぇなんて……」
「家に置いておくのも落ち着かなくて持ち歩いてるし……そうだ! インターネットで売れるんじゃん?」
「お前わかんの?」
「……わかんねぇ」
「駄目じゃん」
少年たちはため息をついた。
「あれが犯人ですな?ニャトソンさん」
「えぇ……」
毎日の捜査のかいもあり、私たちは犯人の少年たちの元にたどり着いた。
「しかしニャトソンさん。相手は子供とはいえ人間です。どうなされるおつもりで?」
「それは……」
考えてなかった。
あぁ……私はどこまで無能なのだろう?
「ネコ?」
「ん? うわぁぁ!」
ショカツは叫びながら飛び跳ねた。
無理もない。
声をかけてきたのは黒人の大男である。
「誰かと思ったらイケか? どうした? こんなところで?」
「ロードワークの途中でネコとイヌいた。イケ驚いたよ」
なにを言っているかわからないがこれはチャンスだ。
「イケ。本……見えるかい? あの少年たちが持っている本……あれを」
私は必死で肉きゅうで少年たちを指差した。
「ホワット? ……ネコあのボーイたちのブック欲しいか? オーケー。イケに任せるね」
イケは少年たちに向かって走り出した。
「うわぁぁ!」
「ごめんないぃぃ!」
「ブックプリーズ! ブックプリーズ!」
本を持った少年たちをお札を握ったイケが追いかける。
怖かろう……相手は世界最強の人間である。
「ブックプリーズ! イケマネーあるよ! 売ってよ!」
「もしかして本屋の人に雇われた? ごめんないぃぃ! 二度としませんから許してえ!」
「本はお返ししますぅぅ!」
少年たちは本を投げ捨てて走り去った。
「ヤングボーイ! マネーはいいのか!?」
こうして私たちは本を取り戻したのである。
「ありがとうございました……」
「いや……どういたしまして……」
本を取り返したというのに彼女は元気がない……どうしたというのだ?
「主人も……きっと喜びます。このお礼は必ず……」
「いえ。お礼など……どうかされました……」
「ニャームズさん!」
「おっと!」
突然。彼女が私の胸に飛び込んできた。
「ニャームズさん……私、妊娠してるみたいなんです……」
「にんし……にゃんですと!?」
これ以上ないほどの衝撃だった。
「デヴィッドの子供です……こんなのってないわ……縁を切りたいのに……こんな……」
あぁ……なぜ彼女ばかりこんな目にあわなくてはいけないんだ。
『彼女を守りたい』。
私はそう強く思った。
「ニャームズさん……私はどうしたら……」
彼女が見ているのはあくまで私ではなくニャームズだ。
……だからなんだ?
私は彼女に見返りなんて求めない。
たとえ思いが届くことがなくとも私は彼女を守る!
それが私の愛なのだ!
『そいつから無理やり連れ去ってしまえよ』
あの時のニャームズの言葉が何度もリフレインした。
「……風が冷たいですね」
その日は冷たい風がビュウビュウと吹く大変冷え込む日だった。