ケビン
「俺たちが兄弟げんかをしたのは5日前です。弟は住みかを飛び出し、行方をくらましました」
「ふむふむ……」
「兄弟げんかはしょっちゅうだったんでね……特に心配はしていなかった。いつも夜になればひょっこり帰ってきたし」
「だがその日は違った?」
「えぇ。待てど暮らせど弟は帰ってこず……心配になった私はドーサツに捜索願いを出しました。この道路の先に塀で囲まれた巨大な駐車場があるでしょう? ケビンはそこで無惨な姿で発見されました……俺は後悔しましたよ。ケンカなんてするべきじゃなかった」
「ははぁ……」
「そしてその日は帰りました」
「……帰った? そういえば埋葬はされないのですか?」
「マイソウ? それは人間のやり方でしょう? 俺たち野良は死んだら虫に食われ、土に還るのがルールなんです」
「失礼。そうでしたね。続けてください」
動物には動物のルールがあるのだ。
「俺はケビンが食い尽くされるまで毎日通うことを決めました。そしたらですよニャームズさん。ケビンが私たちの住みかに向かって駐車場内を数十メートル移動してるじゃありませんか!」
「……実に不思議だ」
「驚きましたよ。ドーサツによれば誰かがくわえて運んだわけではない。そんな形跡はない。人間が死骸を移動させる理由なんてないでしょう?」
「無いことは無いのですがね……続けてください」
「その日も俺は暗くなるまでケビンと一緒にいました。そして次の日またケビンに会いに来ると……今度は塀を越えた草むらに移動していました!」
私は猫背が寒くなってきた。
これではまさしくホラーだ。
「そして今日……ケビンはここまでやって来たんです……」
「草むらの横の道ですか……二日目と三日目に比べるとずいぶん移動距離が短いですね。1〜2メートルってとこですかな?」
「そんなことはどうでもいいんだニャームズさん。何とか犯人を見つけられませんか? このままではケビンがあまりにも憐れだ」
「最善を尽くします。ボブさん……しかしね。誓って言うがケビンさんの旅も今日で終わりです。埋葬してあげなさい」
「出来ぬ相談です。私はケビンを見守り続けます」
「そう……ですか……私は忠告しましたよ? さてニャトソン君。最初の現場に向かおう」
「わかった」
「ケーブ。駐車場の車は当然調べましたね?」
「もちろんです。ケビンの匂いのついた車は見つかりませんでした。犯人はたまたまこの駐車場を利用した人間でしょう」
「それはどうかな……」
「ニャームズ。なんだかスッキリしない物言いだね?まるで犯人に目星がついているようだ」
「ニャトソン君……犯人に関しては0〜30パーセントほど……【死骸を移動させた人物】に関しては0〜80パーセントほど僕は検討をつけてるんだぜ?」
「……なんだって!?」
「話を聞いただけで!? ニャームズさん! あなたは魔法使いか!? 是非話を聞かせてください!」
「まだまだ……曖昧な事は言いたくないのでね……どちらも0の可能性がありますしね。さぁ駐車場へゆこう」
「死骸を移動させた人物?そんな馬鹿な……ケビンは自分で……」
「ニャトソン君……」
「うん?」
ニャームズは私に耳打ちをした。
「悩むぜニャトソン君……この事件が解決した時……全てをボブさんに話すべきか……まだ確定ではない……確定ではないのだが……」
「ニャームズ。君はすごいなぁ……しかしケビンの旅も今日で終わりというのは本当かい?」
「うん? それは100パーセントだね。その話も語るのははばかれるのだが……憂鬱だぜニャトソン」
続く。