猫妻
「なにが良かったんでしょう? あんなオス……ヤング・キャットだった私は未熟すぎました。やんちゃで人に迷惑をかけるのがカッコいいと思うようなオス……つまり『ニャンキー』に夢中になっていた時代があったんです……若さに任せて結婚したのはいいものの彼の暴力に耐えられなくなった私は住処を抜け出し、今の主人に拾われたのですが、どこで聞きつけたのか見つかってしまい……時々先ほどのようにおカリの無心に来るんです」
「そうですか……」
「あっ。ちなみに今ではニャームズさんのような知的でニャンディーなオスが好みですよ?」
「そうですか……」
彼女の話を聞くのがつらい。
私はニャームズでもないし、ニャンキーでもない。
彼女は猫妻……私の恋は終わった。
しかし彼女が困っているのには変わりはない。
この件についてもニャームズに相談するとしよう。
「確かこう……こうですね」
ナタリーは前脚でペンを握り、紙に盗まれた本のタイトルを書いていった。
驚いたことにナタリーは人の文字を書くことが出来た。
流石は本屋の猫といったところだ。
「これはどんな本なのでしょう? ニャームズさん」
「大変難しい本です。これは高く売れますよ。盗まれるのも仕方がありません」
まったくわからん。
あとでニャームズに聞こう。
……ああ。私はニャームズがいないとなにもできないんだなぁ。
「家の主人は変わり者ですからね。変な本をたくさん持っていたので盗人に狙われたのかも知れません」
「変な本……ですか?」
「ええ。例えば……分厚い難しいタイトルの本なのに写真というのですか? 写真の本だったり……タイトルは『大日本文学兼史実全集』といのですが……」
「はぁ」
それは変わった本だ。
なんだろう?
「とりあえず今日は一度家にもどって情報をまとめます」
「はい」
『ふーん……それで君はその程度のことで彼女を諦めたのか?』
電話越しのニャームズはなぜか不機嫌だった。
「そうはいってもニャームズ。猫妻はどうにも……」
『愛だの恋だのを僕に語っていたわりに根性がない。君の愛する力はそんなものかい? 彼女は別れたがっているのだろう? そいつから無理やり連れ去ってしまえよ』
「にゃんと!?」
大胆なことをいうオスだ。
しかし勇気が湧いてきたのもまた確か。
このオスの言葉には不思議な力がある。
「……考えておこう。ところでブラカリと本のことだが……」
『はいはい。西岡氏の本棚にあった本は『大日本文学兼史実全集』と読むのだよ。難しいタイトルに中身は写真……タイトルはカモフラージュ。エロ本だろう』
エロ本?
「エロ本とはなんだ?」
『知らないでいいことさ。とにかく氏はまだまだ元気ということだよ。ブラカリについては……彼らはしっかりと団結したチームだが、ほころびはある。例えばブラカリに新しくメンバーが加入したメンバー……彼なんかは……コラッ!』
「ニャームズ? 彼とは? どうした?」
ニャンダイチの声が聞こえる……
『助けて! ピラニアが! ピラニアが! しっ……死ぬっ! 助け……グフッ!』
「ニャンダイチ!?」
静かになった。
『……余計なことを喋るなと言っているんだ。さらばだニャトソン。今度はこちらからかけるよ。立て! 少しかまれたからってなん……』
切れた。
「にゃんだというのだ……」
テレビを見るとニャモさんが浴衣にジーパンでテレビにでていた。
「……自由だな」




