帆立町フォーチュンテラー
以下は後々ニャームズから聞いた腕ひしぎニャー字固め中の二匹の会話である。
☆
「君は弱い……ニャルバロッサ……いや『ニャンダイチ・ロクスケ』君」
「ニャ! ……ニャゼその名前を!?」
「イギリスで活躍できず日本にやってきた半端者の探偵見習い……調べさせて貰ったよ。全く彼とは似ても及ばない。君の『自作自演の事件』にももうつきあっていられない。我々ニャー探偵は事件を減らすためにいるのであって事件を増やすなんてもってのほかだぜ?」
「バカな! ぼぼぼぼ……僕は本当に事件を……ヒィッ!」
この時ニャームズは身も凍るような恐ろしい眼をしたという。
「あまり僕を舐めるな。僕の頭には鰹が丘の飼い猫も野良猫もペットもその飼い主のデータさえ事細かに記憶されているんだ。僕に嘘は通用しない。君が餌で雇ったのだろう? 己の名声のために事件を増やすとは何事だ!」
恐ろしい猫である……『全て頭にインプットされている』……彼のあの言葉は嘘ではなかったのだ。
「君の本気を見せて見たまえ。とっておきの技があるんだろう? みんなの前でこのことをバラされたくなかったら全力でこい」
「くっそぅ……」
そして二匹のブーメニャンフックは放たれたのである。
さて。これは余談だが、この戦いを草むらから見ていた人間が一人いた。
イケである。
☆
「これだぁぁ! イケ。新必殺技みつけた! ネコありがとう! イケまたやれる! チャンピオンなるよ!」
イケはジムへと帰っていった。
ニャームズはまたしてもイケに必殺技を盗まれたことになる。
まぁ人間にニャームズ以上のブーメニャンフックが打てるとは思わないが。
☆
「しかし驚いたなぁ……ニャルバロッサがニャンダイチの子孫だとは……」
「ああ。なにがニャルバロッサ六世だい。ロクスケのくせに。彼はニャンダイチに似て大抵のことは猫並以上にできるのだが彼と違い向上心と探求心。そして努力が足りなかった。あるのは実力に見合わないやたらと高いプライドのみ……こういうヤング・キャットが最近増えてきたね。大抵のことが猫並以上にできるのは彼にとって逆に不幸だった。世間や周りを見下す自分が最高にクールだと思っているんだよ。彼は根性を叩き直す必要があるね。ニャンダイチに代わりそれは僕がやろう。……というわけでニャトソン。僕は彼と少しばかり世界をまわってくる。この家は自由につかっていいから留守を頼むよ」
「……え?」
猫耳に水だった。
数日もしない内にニャルバロッサを無理やり引っ張り、ニャームズは鰹が丘を旅立っていった。
全く『アクティブ』な猫である。
☆
「いやぁ~ニャトソンさん! 本日の毛並みも最高ですなぁ~! なにか困った事はありませんか? なにかあった場合い・つ・で・も! 私をお使いくださいませませ!」
「うんうん……」
ニャルバロッサという後ろ盾を失い、ドーサツでのキャリアも危うくなったショカツはやたらと私に媚びるようになった。
今まで私には一切ふれなかったくせに……
しかし、こういったオスがいつの間にか出世していくのは人の世界でも同じだろう。
「それでは私はパトロールにいって参ります!」
「お疲れ様です……」
やっと帰ったか……疲れた。
「しかし思い切ったことをする奴だ……」
ニャームズから届いたインドからの写真を改めて見た。
ニャームズとかなり毛の短くなったニャルバロッサと二匹を守るように立つ三人の男……
『チャーリー』『ニック』『マット』の三人である。
「雇うかなぁ……普通」
これがニャームズの言う『少しだけいい道』か?
「どこまで『アクティブ』なんだか……おっ? イケだ」
イケがニュースに出ている。
『イケ選手完全復活!強力なフックでKOの山を築いています!』
「おめでとうイケ……」
。
画面に映るイケのうれしそうな顔……言葉はわからぬがいいニュースなのだろう。
☆
えっ? ホタテ組がどうなったかって?
幹部が捕まり解散したよ。
全員が「猫が……とてつもなく強い猫が……いきなり事務所にやってきて俺たちを……うわぁぁ!」
と怯えながら警察に供述しているらしい。
警察は薬物による幻覚だと判断しているようだが私はそうは思わない。
……読者諸君も真相に気づいているだろう?
ニャームズは大変『アクティブ』な猫なのである。
2014年ニャーランド誌掲載
『帆立町フォーチュン・テラー』
完。
次話からニャトソン君が主役のお話が始まる……予定です