ボブ
鰹が丘の隣町の【鮪が這て】……我々は車がビュンビュンと行き交う道路脇の歩道にたどり着いた。
「私の名前は【ボブ】……見ての通り野良犬です」
依頼犬のボブはげっそりと痩せた薄汚れた犬だった。ボブの横にはハエのたかる布を被せられた【何か】……
「はじめましてボブさん。私がニャームズです。こちらは相棒のニャトソン君です」
「ニャームズさん……アナタの噂は聞いています。素晴らしいニャー探偵だそうで……俺の弟を殺した犯人を是非見つけてください」
「弟?」
「そうです。……これを見てください」
「うっ!?」
ボブが布をどかすとあまりにも残酷な死骸がそこにあった。
「……弟のケビンです」
ケビンの死骸は目の玉が外れ、身体中の関節が不自然な方向に曲がり、臓器が飛び出しており、私は毛玉を吐き出しそうになるのを必死に耐えた。
「ははぁ……車に引かれましたか。これはこれは……」
「しかしニャームズ。犯人を見つけるのは無理だろう……これだけたくさんの車が毎日行き来しているのに」
「む……確かに。ただでさえ難しいのに、この辺りの車でなければお手上げだ」
ニャームズは肉きゅうを上げた。
「ニャームズさん。我々もそう思ったのですがね……あまりにもあなた好みの不思議で珍しい事件なので声をかけさせていただきました」
「不思議で珍しい?」
ニャームズは片眉を上げた。
恐らく私と同じことを考えているのだろう。
「遺族の前でこんなことを言うのははばかれますが……道路で動物が引かれるのは別に珍しい事では……」
残念ながら確かに珍しい事ではない。
「いえ、ニャームズさん。この死骸……ケビンは少しずつ家に帰っているのです」
「家に帰っている? と言いますと?」
「えぇ……ケビンは……ケビンは少しずつ俺たちの住みかに向かって移動しているのです」
「ニャンですって!?」
「そんな馬鹿な!? 死骸が歩くとでもいうのですか!?」
「そうです。ケビンは……死してなお思いでのつまった住みかに帰ろうと……クッ! 失礼。涙が……」
「死骸が歩く? そんな馬鹿な……ニャトソン君。こいつは面白くなってきたぜ」
ニャームズの瞳は玉ねぎをかじった時とは比べ物にならないぐらい爛々と輝いていた。