ニャンダイチ・ニャースケ
「三丁目のカナリアのボン……いるだろう? 彼を救ったのはこの僕だ。あと一丁目のブルドッグのゴンザレスのめざし紛失事件……あれは難事件でしたね。どうですか? あなたもそろそろ引退されては? まぁ放っておいてもあなたなんてすぐに誰も相手をしなくなるでしょうかね!」
「その通り! 傑作ですな!ハッハッハッ!」
「以上かい? 今日も大変愉快な話を聞かせてくれてありがとう。ボン君とゴンザレス君にはよろしくいっておいてくれたまえ」
「ふん! 強がりを……いきますよショカツ!」
ニャルバロッサは帰って行った……これである。ニャルバロッサとショカツは毎日のようにニャームズの元を訪れ、自分がどんな事件をどれだけ華麗に解決したかを自慢して帰って行くのである。
あと、いい加減私にふれて欲しい。
寂しいではないか。
「やっと帰ったか……ニャームズ。それではイケが待っている。行こう」
銀だら町でイケと合流し、拳銃発見者であるエイブス人の調査をするのが最近の日課だった。
「まぁ待てよ。今日は少し復習をしようぜ」
「復習?」
「うん。大分明らかになってきたからね。ここいらで情報整理といこう」
明らかに?……私にはさっぱりわからなかったが……
「なんだ君らしくもない。記憶力が衰えたのか?」
信じがたいがニャームズも猫の子ということか。
「そんな事はないよ。僕は今だって鰹が丘についてのデータは野良猫から飼い猫まで全て頭にインプットさてるんだぜ? ほら。これをご覧」
ニャームズはどこからか持ってきたファイルをテーブルに広げた。
全て頭にインプット……このオスならありえそうな話である。
「これは?」
「ここまでの情報をまとめたファイルさ。これだけ情報があれば君にも今回の事件の結末を推理できるはずだ」
「事件? 推理? 真面目に生きてきたエイブス人の青年二人が拳銃を発見した……それだけの話だろう?」
本当に大丈夫か? ニャルバロッサの言うとおり彼はロートル・キャットになってしまったのか?
「それだけならいいんだがね。君も知っているだろうが僕は人間の協力者が少なからずいる。彼らの協力もあり、新しい情報も含まれている。さぁ読んで」
「ははぁ……どれどれ」
私はニャー語で書かれたファイルを読んでみた。
『この一月の間でエイブス人の青年が拳銃発見に有益な情報を警察にもたらした』
まずこれはニュースでやっていたことだな?
『発見者は『ニック』と『マット』どちらもエイブスから出稼ぎにやってきて工場で働いている。生活は苦しく、親に仕送りもままならないようだ』
これも知っている。ニックもマットも私がみる限り素晴らしい好青年だった。
しかし彼らの雇い主はよくなかった。
給料をピンハネし、二言目には『いやなら国に帰れ』という奴だった。
まぁニャームズに説明されるまでわからなかったが。
『そんな彼らが『謎の占い師』に指示され、ヤクザの拳銃所持を暴き、警察の捜査の手助けをした』
これは知らない。
そう思っていたらニャームズが説明してくれた。
「ニックがこの国の友達にポロリと話したらしいよ。占い師には『私のことは絶対に言うな』と言われているらしい」
「へぇ……」
「続きを読んでごらん」
「わかった」
『ニャンダイチ・ニャースケについて』
「ニャームズ……これは?」
ニャンダイチといったらニャームズの若き日の友人ではないか。
「うん。ポーさんのことを覚えているかな?」
「もちろんさ」
当然覚えている。
サーカス団の一員として世界をめぐる猫である。
フィレオフィッシュタウンで一緒にまたたび酒を飲んだっけ。
「彼がイギリスでニャンダイチという猫を見たと聞いてね。日本に帰ってくる前にイギリスにいったんだ。それでいろいろ調べたよ。なんと彼には子孫がいたのだ。一足遅くて会えなかったがね」
「へぇ!」
「嬉しかったなぁ」
「そうだろうねぇ」
「やっと借りを返せる」
「ん? 借り?」
「そうさ。ニャンダイチにかかされた恥をそのままその子孫にぶつけてやろうかな? なんて……」
ニャームズは『冗談だよ』と言いネコっと笑ったが目が笑っていなかった。