らっぱぁ
「ネコ!」
「ヒニャァァ!」
帆立町にたどり着き、私とニャームズはニュースにでていた『エイブス人』を観察し、そろそろ帰ろうときびすを返したその瞬間。私は突如現れた男に胴体をわしづかみにされた。
凄まじい速さ……猫の私でさえ反応できないスピードだった。
「なんだこの男は!? にゃ……ニャームズ! 助けてくれ! 殺される!」
男のスピードは、確かにすごかった。
しかしさらに驚くべきはニャームズである。
見事に男の襲撃を避け、ペロペロと余裕の毛繕いをしている。
「毛繕いなんて今じゃなくていいだろう!? 早く助けて……殺される」
「ネコー!」
男は私を抱っこしながらブンブンと振った……気持ち悪い。
「ニャトソン君。それじゃあ。そこの公園で一休みといこうぜ。何を慌てているんだい? 彼は僕たちの弟じゃないか?」
「弟……?」
私は冷静になり男を見た……
「ひさしぶりだなネコ」
あぁ……まさしく彼は私たちの弟……人類最強の男。イケだった。
☆
公園にたどり着いた私たちはとりあえずベンチに座る事にした。
「イケ勝てない……チャンピオンのプレッシャーすごいよ……イケのニャッパーカットもうエネミーに通じない……だからイケ、ネコたちに会うためジム抜け出してきた……」
「イケ……」
何を言っているかはわからないがイケは困っているようだ。
私は彼を元気づけるようにそっと彼の膝に肉きゅうを置いた。
「イケ……新しい必殺技ほしいよ……ネコ。なにかないか?」
帽子を斜めにかぶり、ダボダボの服を着たイケはうつむいた……確かこのファッションは『らっぱぁ風』というのではなかったか?
「ニャトソン君。しかしエイブス人の彼はいい青年だったな……」
ニャームズはパイプをくわえながら呟いた……いいだろう。
パイプにはもう触れない。
エイブス人の彼も町の住人に愛される勤労青年だと言うことも認めよう。
しかし。
「ニャームズ。イケはなんといっているのだ? 私たちで彼を救ってやろう」
「救う……かぁ……救うためには時に暴かなくてはいけない。残酷だな……このままにしておいた方が彼の……いや、彼らのために……いやいや。この国の警察とドーサツを舐めてはいけない。仕方ない。憂鬱だが腰をあげるとしよう」
長々と呟き深いため息をついた……何を格好をつけているのだ?
「いいさ。推理の基本……『知ること』の実行だ。ちょっと調べてみよう。イケも……そうだな。機会があれば君に新しい必殺技を伝授してあげよう。しばらく行動をともにしようじゃないか」
ニャームズはベンチから飛び降りた。
「しかし彼に関しては確定だな……全く彼とは似ていないな……憂鬱だ。憂鬱だよニャトソン。できればこっそりと済ませたいものだ。ニャトソン僕はね? 正義の味方を気取っているわけではない。少しだけこの世界が僕にとって過ごしやすい世になって欲しい……それだけなんだ」
「わからん」
ウニャウニャと猫やかましい奴だ。
こちらにはなにも教えず、やたら訳の分からないことをペラペラ喋るのはこのオスの悪い癖である。