猫二匹
「君を真の友だと信じ、全てを話すよ?」
「覚悟はできているさ」
ポー氏と別れた私とニャームズはニャーラウンジで静かにマタタビ酒を呑んでいた。
「……」
「……!?」
ニャームズの話はどれも信じられないものばかりだった。
不老不死の薬、友の死、人の悪意を引き出すマリスというドラッグ……
世界中を巡り、ニャームズは悪の教授モリ・ニャーティーから世界を守っていたというのだ。
「そういえばニャーランド誌に書いてあったな……《世界中で暴力事件が多発している》と……」
「そうさ。マリスとモリ・ニャーティーとその相棒の天才・シンのせいさ。僕も一度は彼らをジャングル奥地の監獄にぶちこんだのだがね……なに心配はいらない。こちらにも天才はいる。ダンという。君にもいつか会わせるよ。先程のホームズのパワースーツを作ったのも彼だ。猫の姿ではできることに限界があるのでね」
「そうか……君は何かある度に世界中に足を運ぶスーパーキャットなのだな……敬語を使うべきか? 君は僕より遥かに年上なわけで……」
マニャーは大事にしたい。
「気遣い無用。心はいつだって三才だ。おっ? みたまえ。僕の脚本通りだ」
ニャームズはテレビに肉きゅうを向けた。
「私にはさっぱりわからないよ」
「そうだ。不思議だね。君は人語が喋れるが理解できない。僕は逆だ。その力を僕に貸してほしい」
「もちろんさ」
私は誇らしい気持ちになった。
私にも世界が救えるかもしれないのだ。
「さて……この島には今日。アンディアナント、ワンユキノ、ジョーオーウンの三人のビッグマフィアが手を結ぶためにやってくるはずだった。この三人が手を組んでマリスを世界中に浸透させられたら大事だ。しかし過去の抗争からアンディはワンをワンはジョーをジョーはアンディを大変恐れている」
私は重い口を開いた。
「ニャームズ……残念ながら彼らはすでにこの島にやって来ている……私は昼間に彼らをみたよ……」
「うん? ハッハッハッ!!君もすっかり騙されたようだね! リハーサルをみたんだな!?」
「騙された?」
「君が見たのは僕がスカウトした役者だよ」
「役者!? 信じられない!!あの迫力はまさしく……」
「本物そのものかい? そうさ彼らは役者の才能があった。アンディ役は元スタントマン。ワン役は元ミュージシャン。ジョー役は元マジシャンなんだがね」
「へぇ!!」
「僕はアンディ役をワンにワン役をジョーにジョー役をアンディーに差し向けた。セリフはこうさ《手を組む? 冗談じゃない!! 本当はお前をぶっ殺したいと思ってるぜ!!》ってね。効果はてきめん。三人はすぐに自分の国に帰っていったぜ。今のニュースは「マフィアが上陸しようとしたが港でなぜか引き返した」というニュースだ。実に愉快。僕の舞台は大成功さ」
「大事な舞台とはこのことか……」
すっかりやられた。
「君には悪いことをした。モリ・ニャーティーが近くにいる以上下手なことは話せなかったし盗聴の危険もあった。だが、我々が開発したスニャホはきっと盗聴の危険はないよ」
まだわからないことがある。
「なぜ君は私がブラウン・サークルのセリフを覚えていたとわかった? あと私に会わせたい方って……?」
「なんだ。そんなことは簡単だ。ブラウン・サークルは君の大好きな笑っていいニャモの後続番組だしね。未練たらしい君のことだから必ず見ていると思ったのさ」
「うっ……」
悔しいが図星である。
「オマケに君は主人公の刑事に好感を持っていた……そうだろう?」
「そ……そうだ!! 自分でも不思議なんだ!! なぜだ!?」
「簡単さ……丸い顔、焦げ茶色の肌……彼は君の大好物……煮玉子にそっくりだからさ」
「そ……そうかぁ!!」
やっと疑問が解けた。
「しかし刑事の決めセリフが「警察を呼んだぞ!!」はないよ。あのドラマはすぐ終わるね。君に会わせたい方? それは明日になればわかるよ。明日フィレオフィッシュタウンでちょいとしたお祭りがあるんだ。チャンスを掴むためのオーディションイベントだ。リ・スタートのためのね。君、興奮しすぎるなよ?」
そういってニャームズはマタタビ酒を一息で飲み干した。