至宝のパピルス
「私にですか?」
「うん。この間のすずめが窓をコツコツつつくから中にいれたら、巣のなかにあった【宝くじ】を何度も僕につき出すからくれるって意味なのかなぁ……って。それで二枚あったから張本さんにも一枚って……」
「へぇ……すずめの恩返しですかねぇ?」
その夜、シジミ大学獣医学部の青年【西根進】は鍋と本と【パピルス】を持ってやって来た。
「しかしニャームズ……ピチュールの巣にあったパピルスは宝くじというらしいが……あれはなんなんだ?」
全ての事情を知り、なにかお礼がしたいというピチュールにニャームズは『巣のなかにあったパピルス……あれを二人に渡したらどうだろう? あれは宝くじといってね。もしかしたらただのパピルスが【至宝のパピルス】に変わるかもしれないぜ』と言ったのだった。
「そのうちわかるさ。あのパピルスは貧乏な二人にきっと幸運をもたらすよ」
ニャームズはネコッと笑っておもちゃのパイプをうまそうにくわえた。
「……西根センパイ? この『意中の女性の口説き方』ってなんですか?」
「わっ!? 間違った!!それはね……違うんだよ……」
「へぇ〜センパイ意中の女性がいるんだぁ? 誰かなぁ〜? もしかして私だったりぃ?」
「それはその……えと……うん。……張本さんです」
「えっ?」
何を言っているかはわからないが二人の顔が真っ赤になった。
「ニャームズ? 彼は何を言ったんだ? おいっ?」
ニャームズは私の肉きゅうを掴み引っ張った。
「野暮だな君も。僕たちはしばらく散歩にいこうぜ」
「なんだよ? おい! ニャームズ!!」
「謎は案外簡単にとけた。これだからニャー探偵はやめられない。あとは彼ら二人の幸せを祈るとしようぜ」
「ニャンだというのだ……」
私が猫用玄関を潜るときふと二人を見ると西根氏がフジンの顔に自分の顔を近づけていた。
○
それからすぐにニャームズは日本を去り、フジンは宝くじに当選することで富を得た。
ニャームズはどこまでもミステリニャスな猫である。
○
「推理とは観察することと知ることか……なるほどな……」
ニャームズが日本を去ってしばらくしたあと私は毛布の下に隠された細かく刻んだ玉ねぎを発見した。
「どうりでパイプを気に入っていたはずだよ」
私は彼がパイプに刻み玉ねぎを詰め込んでいたと推理した。
「ちょっと彼に厳しくしすぎただろうか? 次に会うときは……もう少し優しくしてやるとしよう」
【ニャーロック・ニャームズ】……
私が彼と再会するのはもう少しあとの話である。
2014年。ニャーランド誌掲載。
【至宝のパピルス】
……終