シジミ大学
我々はケーブの用意してくれた馬車……ならぬ犬車二台に乗ってシジミハイツまでやって来ていた。
※(余談だがある読者から「ミニチュアシュナウザーに猫二匹は大変だ」という感想を頂いたが今思えばまったくその通りである)
「見ろよニャトソン。シジミ大学だ。あの敷地内には獣医もあるんだぜ」
「……ニャームズ。今はシジミ大学は関係ないだろう? いくぞ」
獣医という単語すら聴きたくなかった。
「まったく君は……」
「関係ないことはないんだ。シジミ大学の近くにあるシジミハイツ……これは間違いないかもな……しかしまだわからぬがね。さていこう」
○シジミハイツ
「1ー3号の隣の1ー5号がここか……しかしニャームズ。やはり心霊スポットだけあって嫌な空気というか嫌な臭いというか……なんだが猫背がゾッとするな……」
私はシジミハイツから得たいの知れない不快感を感じていた。
なるほど誰もすんでおらぬだけあって殺風景な部屋である。
「やはりそうか……じゃあ次にいこう」
「えっ? 推理とは観察と知ることなんだろう?」
「うん。もう十分に観察したよ。ここには観察というより確認に来たんだ。さぁいこう。ついておいで色々見たい場所がある」
「……わかったよ」
○
「ニャームズ……地震だ……地震だぞ……」
ニャームズにとある空き部屋に招き入れられると私はすぐに揺れを感じた。
この部屋には窓がない。密閉された空間で地震に教われるのは動物にとって激しいストレスである。
「あぁ……ニャームズ……すまん……私は……もう……駄目だ……」
恥ずかしいことに私は意識を失った。
最後に私の目に映ったのはニャームズのネコッとした笑顔だった。
○
「ううん……ここは!?」
「やっと目覚めたかニャトソン」
もう一度気絶しそうになった。
「……嘘だろう? ニャームズ……ここは……5ー5号……本の部屋かい?」
「そうだ。これをごらん?パピルスだ」
ニャームズはカラフルな色のパピルスを二枚私に見せた。
「ぱ……パピルス……信じられない……ここで猫とピーチュンは治療をうけたのか?」
「観察と知ることだよニャトソン」
ニャームズはパイプをくわえ部屋を練り歩く……私はなぜかその姿に違和感を感じた。
「ほら。あの本を見てごらん? 赤い本と白い本だ。それにほら。鍋がある。わかるかい? 赤い本のタイトルは【意中の女性の口説き方】、白い本は【動物治療一覧】だね。鍋の焦げ具合……本の汚れ方、付せんの数……僕の記憶と観察に間違いはない。あれは一つを除いてフジンのものだね」
「……」
放心状態の私はニャームズの言ったことを右の猫耳から左の猫耳へ聞き流していた。
「まっ……コレでほとんど事件は解決だ。ピチュールさんにもドーサツにも報告をしないとね。ニャトソン。いつまで放心してるんだ? 僕はピッキングでこの部屋に入ったんだ。見つかっても問題はないだろうが話がややこしくなる。退散するとしよう」