1ー5号
「とある怪我をした猫が救われたのが始まりです」
「猫が?」
「そうです。その猫は脚を怪我していて出血から意識もうろうとしていたそうです。彼は自分の死を悟り、空き部屋であるシジミハイツ1ー5号室にたどり着きました。もちろん死ぬつもりで」
「空き部屋の1ー5号室にね……1ー4号や1ー6号の住人はいい気持ちはしないだろうね。すぐに気づかれたでしょう?」
「いえいえニャームズさん。1ー5号は3号と6号から距離が少し離れているのです。不思議なことにシジミハイツには4号室はないのです。1ー5号の隣は3号だけ、1ー6号は階段を挟んだ向こう側にあるようでした」
「1ー3号。すこし離れて1ー5号。階段を挟んで1ー6ね……また古風な」
「はい?」
「……続けてください」
「それでは……1ー5号は殺風景な部屋だったと彼は語っています。しかし彼が地震による激しい揺れを感じ、少し意識を失い目を覚ますと……彼は本がたくさんある人間の部屋にいたと言うのです」
「にゃに!?」
大地震の後に殺風景な部屋から本だらけの部屋に……まるでホニャーである。
「そこには人間が一人。時々もう一人やってきて彼の傷を癒したようです」
「傷を癒した? 治療を施したわけですね?」
「はい。傷も癒えたころ彼はキャリーバックに積みこまれ、外に放たれました。ニャームズさん。驚きですが彼はわずかな隙間から部屋番号を確認したのですが……5ー5号室だったそうです」
「1ー5号にいたはずが5ー5号にいた? そんなバカな!?」
ホニャー嫌いの私は猫背が寒くなった。
「まぁその話はまたあとで……すっかりよくなった彼は森にはなされ去っていきました。それで続きの話はごく最近のことですが……奥さん。出てきてください」
「はい……」
「おや?」
ケーブの毛皮に身を隠していたスズメが姿を現した。
「……ニニャア」
「ひっ!!」
「ニャトソン君!」
「にゃ!……すまない」
スズメは猫にとって最高の狩りのターゲットであり、私もヤング・キャット時代は何度も首を噛み千切り家に持ち帰ったものである。
その時のことを思い出したのか私は彼女をギラギラした瞳で見つめ、ニャンマリとしてしまった。不覚。
「彼女は【ピチュール】さん。彼女のヒナもまた病に侵されていました……さぁピチュールさん。ニャームズ先生にお話を聞かせてあげてください」
「ははは……はい」
私のニャンマリにすっかり怯えてしまったようだ。
「ピチュールさん。大丈夫。僕と彼は猫紳士です。娯楽で命を奪うようなことはしませんよ。なぁニャトソン?」
「その通りだ」
正直私はピチュール氏の喉元に食らいつきブンブンと振り回したかったが我慢した。
仕方あるまい。不本意とはいえ私も猫紳士なのだから