ケーブ
ニャームズの【仕事】はしばらくの間私が知ることはなかった。
ニャームズは一日中町をフラフラとし、数ヶ所あるお気に入りの場所でゴロゴロと喉を鳴らしながら人間たちをジッと観察する毎日を送っており、私はその隣に座り、ニャームズの話ににゃあにゃあと相づちをうっていた。
そして一ヶ月があっという間に過ぎ、私はニャームズについてわかったことをまとめてみた。
人気……猫、人間共に高し。
猫パンチ……強し。
性欲……無し。
食欲……低し。だが玉ねぎを好む。
知識……驚くほど多し。
ニャームズは去勢をしていないのだが、性欲は全くないようだ。
「僕はメス猫と遊んでいる時間はないのだ。猫に与えられた時間は驚くほど短い……まぁ君に言っても理解は出来ないだろうがね……」
この発言には少々腹が立った。
確かにニャームズは頭がよいが、自分以外の猫を見下しているところがあるようだ。
猫パンチ……ニャームズは部屋にある観葉植物を相手によく猫パンチの練習をしていた。
その猫パンチは速く、重く、ニャームズが決して弱くない猫だと語っていた。
そしてニャームズの好物の玉ねぎ……これは問題だった。
ニャームズは懐に小さな玉ねぎを常備しており、ニャームズいわく。気持ちをハイにするために時おりそれをかじった。
玉ねぎが猫によくないのは私にもわかることで、私は何度も彼を止めた。
そのかいがあったのか、私の見る限りでは彼は玉ねぎをかじるのを止めたようである。
☆
ある日、私は安楽椅子の上で毛布にくるまるニャームズに訊ねた。
「ニャームズ。君はずいぶんと人間が好きなのだな?」
ニャームズは微笑んだ。
「好きさニャトソン。毎日見ていても飽きることがない。彼らは何とも愚かで愛しい生命体なのだ。研究に一生を捧げる価値があるね」
「だから君は発情しないのか?」
「発情……子孫繁栄を否定する気はないがね。僕はメス猫を信じきっちゃあいないんだ。好き好んでメスに近づく猫たちの気持ちはさっぱりわからないね」
……なるほどニャームズはメス嫌いのようだ。
「君の仕事とは人間の研究かい?」
「NO、NO……そうではない……僕の仕事は……おっと! 依頼のようだ!!」
猫用玄関を激しくノックする音……
「なんだ!?」
「落ち着けよニャトソン!! 【ケーブ】かい? どうぞ!」
「失礼します! ニャームズさん!」
「い……犬!?」
犬が玄関から顔だけを出した。
「ニャトソン!! 紹介しよう。彼はミニチュアシュナウザーの【ケーブ】。見ての通り犬さ。ケーブ。彼はニャトソン。僕の相棒です」
「ははぁ……あなたがニャトソンさん? お噂はかねがね……自己紹介をしている場合ではない!! ニャームズさん! 事件です!」
驚いた……ニャームズは犬からの信頼まで厚いようだ。
「ニャームズ……君は……事件?」
「ニャトソン!! 説明は後だ!! 外出の準備をしたまえ!! ケーブ待っていてください! さぁニャトソン。僕の仕事を知りたかったら顔を洗い、爪研ぎをしてオヤツの玉ねぎを……いや、いらないな。そんなものがなくても今の僕は充分にハイだ。おっとニャトソン。猫紳士としてトイレは済ましておいてくれたまえよ?」
続く。