結婚式
ベニクラゲ……不老不死のクラゲさ。
分かりやすくいうとある程度年を取ると若返るクラゲだ。しかし強くはないので、そのほとんどは補食されて死ぬ。
それからの僕? あぁ……最後の力を振り絞って窓から脱出し、崖から海に飛び降りた。
彼らにとっても好都合だったのだろう。追ってはこなかった
それはそうだ。殺すつもりの僕が自殺してくれたのだからね。 ……だが僕は死ななかった。
流された先に『ダン』がいたからだ。
ダンは僕を癒してくれた。
薬の副作用から復活した僕が不老不死になったことに気づいたのはそれから7年後のことだった。
そして僕とモリ・ニャーティーとの40年にもわたる長い戦いが始まったわけだが……
この話はまた次の機会にしよう。そろそろ【結婚式】の時間だ。
○
再び物語は鰹が丘に戻る。
「頂点捕食者かと思われたオニヒトデにはホラ貝という意外な天敵がいた。パーフェクトといわれたマローニ氏もブライアンというイレギュラーによって殺された。平等が差別を生み差別が殺意を呼んだ……と言う話だが。どうだい? 記事になりそうかい?」
僕は玉ねぎをくわえた。
「え? 僕がニャンダイチを本当に嫌っていたかって? モーガン。君はするどいね。……そうさ。僕は彼を嫌っていたというより……憧れていたよ。推理も変装も僕はいまだに彼に追い付いてはいない。玉ねぎをくわえはじめたのも彼を真似てさ。彼は今も僕にとって高い壁なんだ」
モーガンは頭を下げた。
「ん? 取材は終了? それじゃあ頼んだぜ? いい記事にしてくれ」
僕はモーガンを見送った。
○
その後しばらくすると正装したニャトソン君が僕を迎えに来た。
「この匂い……ニャームズ。玉ねぎを食べたな? 仕方のないやつだな君は」
「君の晴れ舞台だ。少しぐらいいいだろう?」
「アルコール中毒の人間みたいなこというなよ。それより友猫代表のスピーチ。考えてきたのか?」
「僕を誰だと思っている?そんなのアドリブでいけるさ」
「ふん……おめでとうぐらいは言ってくれるんだろうな?」
「おめでとうなんて言わないぜ。結婚は人生の墓場だとは人間はよく言ったものだ。墓場に向かう友になぜおめでとうなんて言える?」
「君はひねくれてるなぁ……僕は猫だ。人生なんて関係ない」
「ほほぅ! 君も言うようになったね」
「性格の悪い友がいるもんでね」
「これはまいったね」
悪い気はしなかった。
「さぁ行こう。みんなが待っている」
「うむ」
僕たちは鰹が丘221Bの部屋を出た。
読者諸君。ニャトソン君が妻である猫と出会う話……【駆け巡るニャトソン】もきっといつかニャーランド誌に掲載されるだろう。待っていてくれたまえ。
さぁて本日は青天なり。絶好の結婚式日和だ。
チープな結婚式ソングに耳を傾けカリッと揚がったオニオン・フライかじりながら友の門出を祝うとしよう。
2014年。ニャーランド誌掲載。
【ヤング・ニャームズのニャー失態】
完。