シン
「おいっ!! いるのはわかってるんだぜ!? 君のやってることはまちが・っ・て・い、・る……」
「なるほど。準備なしに乗り込んでくるとはこっちの猫は頭が悪そうだ」
「出来が悪い。だから実験台として向いている」
「悪魔のような猫だねぇ。君は」
「せん……せい?」
管理センターに乗り込んだ僕は途端にからだの力が抜け、動けなくなった。
そんな僕を見下ろすのは銀色の髪の白衣の少年と……モリ・ニャーティー先生……いや、モリ・ニャーティーだった。
「麻酔銃を撃たしてもらった。お腹をみてごらん? 今日の結果は……ニャンダイチに8ポイント。君に2ポイントってところかな?」
「先生?なにを……にゃ!?ギニャニャ……」
少年は僕にピンク色の液体を無理矢理飲ませた。
「ゲフ……グエぇ……」
「みたまえニャームズ」
モリ・ニャーティーが指差す先には大量のモニター。そこに映るのは当時では考えられないほどクリアな監視カメラの映像だった。
(カラー映像? これはバラバリの映像? あそこに監視カメラは……)
「君の考えていることはわかる。私と彼が手を組めばカメラを小型化するくらいわけないのじゃよ。さてニャームズ。君が死ぬ……うん君はこれから死ぬのだろうな。苦しかろうが私の最後の講義だ。よく聴きなさい」
「……」
「大体はニャンダイチの言った通りだ。監視カメラとあのハーブの仕組みはわからんかったようじゃがな。全てが出来すぎている? それはそうじゃ。今日の殺人は私のプロデュースじゃからな」
「ギニャ……」
モリ・ニャーティーの声は聴こえるが僕はほとんど幻の世界にいた。
「電話を使えなくしたのもあえて彼にとって殺しがしやすくなるようにしたのもな。今日ワシは二つのテストをした。ニャームズとニャンダイチ……どちらがワシの部下として優秀か? このハーブの効き目について……」
教授は乾燥させた赤い花を肉きゅうで握り潰すと真っ赤な粉がハラハラと床に落ちた。
「これは人のマイナスの感情を引き出すハーブだ。ワシは『マリス』と呼んでいる。恨みや怒り……もちろん殺意もじゃ。ニャンダイチの言う通り、あの機械では施設全体に香りを送り込むことはできん。しかし2階のあの男には……みろニャームズ……これは想定外だな。ニャンダイチは洗脳し、ワシの右腕にする予定じゃったが……このマリスには筋力増強の効果もあるらしい」
「にゃ……ニャンダイチ……?」
モニターの一つに1メートルに満たない筋肉質の男がニャンダイチに暴行を加えている映像が映った。
『猫ちきしょうが!!コラ!!あっ!?コラ!!俺はなにをやってんだ!?わけわかんねぇ!!コラ!!コラ!!コラ!!死ね!!コラ!!』
僕は涙が出てきた。ニャンダイチはもう息がないなだろう。
それでも男はニャンダイチを殴り続ける……
僕が彼の話を聞いていれば……彼と一緒に行動していれば……後悔と絶望が僕を襲った。
「彼はブライアン……極端に背が低い『小人症』。別名『先天性低身長』の男じゃ。この島には小人症のレスラーたちのプロレスがあり、彼はその『ミゼットプロレス』のレスラーでもある。彼がマローニ氏を殺した犯人じゃ。体力も力もあり、マローニ氏に恨みがある。ミゼットプロレスは小人たちを見てそのコミカルな姿を楽しむスポーツじゃがその姿がマローニ氏には『差別』に見えた。激怒したマローニ氏はミゼットプロレスの中止を訴えたよ。もちろんブライアンは落ち込んだ。ミゼットプロレスこそが自分の天職だと思っていたのにそれを取り上げられる……そしてこのハーブ。施設。殺人を犯すシチュエーションはバッチリだ。ニャンダイチには気の毒な事をした。君と同じくらい馬鹿だったらもう少し長生きできたのにの」
「モリ・ニャーティー。やっぱりアンタは悪魔の猫だよ。港でマローニの話を聞き、情報を集め、数時間でこんなプランをたてちまうなんてさ」
少年は語る。
「シン? ニャームズよシンを紹介しよう。彼はワシの協力者だ。人間にしては頭がよい」
「人間にしてはは余計だろう」
「君が飲んだ液体も彼が作った。クラゲのエキスを凝縮し、特殊な薬品と混ぜたものじゃ。これはトップシークレットだがこの島の周りの海にベニクラゲとヤワラクラゲが大量発生している。ベニクラゲはご存じかい? 特別じゃぞ? これについても教えてやろう」
「ゲブッ!!」
僕は血を吐いた。