ニャームズとニャンダイチ
マローニ氏がゲストルームで『首を捻り切られ』殺されたのを玄関窓から確認した僕たちは密室の謎を解き明かすため施設を周り、地下にやって来ていた。
「すごい時代になったものだ。この施設の扉や窓は全てセンターと呼ばれる場所で管理されており、開ければ警報が鳴り、すぐにわかるのか」
そんなものはすごくない? いや、『1970年代』のこの頃には結構珍しい……この話は後にしよう。
この国の文字を読めるニャンダイチは施設のパンフレットを読んでいた。
「上をみてごらん。ニャームズ君。通気孔が伸びている。この部屋で特殊なハーブを炊き、ファンで各部屋に送り込む事が出来るらしい。このハーブの香りには様々なリラックス効果があり、研究が進められている……か。決められた部屋にピンポイントで香りを送り込むことは出来るのだろうか?」
「そんなことはどうでもいいだろう。早く犯人を捕まえに出かけるぞ!!」
僕は手柄を挙げ、先生に誉められるチャンスにワクワクしていた。
「犯人? どういうことです?」
しめたと思った。ニャンダイチはまだ気づいていない。
「ニャフン!! 君は本番に弱いタイプだね! 警報が鳴っていないということはマローニ氏の部屋のドアも窓も開けられていないのだろう? ならば管理センターとやらの人間が一枚噛んでいるに違いない! 管理センターへいくぞ!!」
「ニャームズ君。殺人には動機がいるんだぜ?」
ニャンダイチは苦笑いを浮かべた。
「にゃ……そんなものは後から考えればいい! 犯人は管理センターの人間と実行犯の二人だ!!」
「違いますニャームズ君。犯人はこの施設にいる人間です。しかしねぇ……私は気がのらないんですよ。どうにも腑に落ちない……これだけ設備がととのっているのに監視カメラがない。ここは障害者施設だぜ?プライバシーか?廊下にぐらいあったっていいだろう。通気孔をみたまえ。人が一人なんとか侵入できそうだ。香りを送り込むだけならあんな広さはいらないと思うのだが……そもそもこんなファンで施設全体に香りを送り込めるのか? せいぜい2階まででは? 『電話はたまたま今日一日使えない』。『システムの解除には一時間かかり外には出られない』なんだそれは?障害者施設だろ?誰かが怪我をしたらどうする? 全て偶然と言えないこともない……しかし猫用玄関の存在……僕の見るかぎりこの施設に猫はいない。なぜ猫用玄関がある? 私たちは誰かに操られているのではなかろうか?」
「ゴニャゴニャうるさいな! 監視カメラはプライバシー!! 通気孔は念のため!! 猫用玄関は偶然だ!! この施設にいる人間が犯人!? バカを言うな!いいか!?はしごを使って通気孔から侵入したとしよう! ここは地下だ。ゲストルームは5階。両手両足を壁につけ、踏ん張って壁を上っていったのかい? ここには障害者と病人しかいないんだぜ? スゴい体力だな」
「中には健常者と大して変わらない人もいるかもよ?そうでなくとも……」
僕は彼の話を遮って話を無理矢理進めた
「オーケーオーケー……最後はダクトを横ばいになって進み、換気扇から部屋に侵入かな? 君も換気扇を見たろ? 大人が入れる大きさじゃない。そうだな……『1メートル以下』の子供が身体を丸めてやっと通れるサイズだ。犯人には動機がいる……その言葉そのまま返すね。『障害か病気があり、地下から5階までを上りきる体力があり、首を捻り切れるほどの怪力の1メートル以下のマローニ氏に恨みを持った子供』? そんなやつがどこにいる!?」
「いるんだよ。世界は広い。換気扇もおかしいんだ。少し大きい。これも偶然?換気扇は取り外された後があった。君はマローニ氏の部屋にあったチケットをみたかい? 今日。彼氏は格闘技観戦をしたようですね」
「無駄話はいい加減にしろ! 僕は一人で管理センターにいくぞ!!」
「そうか……僕は犯人に会いに行くよ。格闘になるかもしれない。君のニャッパーカットに頼りたかったのだが……」
「……ふん。僕が事件を解決するのをそこで肉きゅうをくわえて見ていろ」
「……」
僕は一階に戻り、猫用玄関をくぐって管理センターに向かった。