殺人
「差別は必要悪だ。差別されるということはある意味個性的だということです。平等が個性を殺すこともある。人間世界はひとすじ縄ではいかない」
「君がそんな下品なやつだとはね。馬脚をあらわしたなニャンダイチ」
一日、島を見て回った僕たちは障害者たちが集まり生活する【バラバリ】の空き部屋に集まり、ディスカッションをしていた。
ここではどれだけ知能や肉体に遅れがあっても全て自分の事は自分でやる。
社会に出たとき、島を出たときに差別されぬため、差別と戦うためにだ。
もちろん職員もなにかしらの障害を抱えている。
「差別があっていいはずがない。お前は最低の猫だよ」
僕も当時は世界の全ては自分達の土地。嫌いな動物は殺す。旨ければ喰う。可愛ければ飼うという人間は大嫌いだったがニャンダイチを丸め込む為、この時は人間側につく事にした。
「そうかね?」
「そうだ!」
「ははぁ……」
「この……!」
激昂する僕に対しニャンダイチは心乱されることなくポーカーフェイスを保っている。
結局は僕が一匹イニャイニャさせられるだけだった。
「そこまで。さて……私は夜の散歩をするとしよう。二匹共。このような施設は珍しい。よく勉強なさい。マローニ・スターフィッシュ氏も感心なことに視察のため今日は一人でここに泊まるようだ」
「……そうなんですか?」
「うむ。それに今日は満月だ。満月の夜に犯罪が多いのは統計学的に立証されている。今夜辺り誰かが惨たらしく殺されるかもな……ククク……冗談じゃ。そんな顔をするな。それでは行ってくる」
「……ニャハハ。先生ってば」
「……」
先生はたまにこのようなジョークを言うのだがどうにも笑いどころがつかめない。
それに先生の不吉なジョークは結構な確率で実現する。
これにはさすがのニャンダイチも顔をしかめずにはいられなかったようだ。
「この施設は9時以降。窓には鉄柵が張られ外に出ることは出来ない。もちろん外から侵入することも出来ない。君たちも外に出たかったら猫用玄関を使いなさい。それでは」
「不吉だな……ニャームズ君」
僕は見栄をはり、気持ちとは逆の事を言った。
「馬鹿らしい……ただのジョークさ。意外にニャイーブだな君は。フフン」
施設中に悲鳴が響き渡り、マローニ氏が首を【素手で引きちぎられて】殺されたのはその数十分後の事だった。