マローニ・スターフィッシュ
「なっ……クソッ!」
僕は言葉を失った。ショック……そして次にニャンダイチが僕の知らないことを知っているという怒りがわいた。
「だがね。二匹共正解ではない……よく聞きなさい。まずニャームズ。君の言うことはもっともだがオニヒトデは水分含量が多く燃やしにくい。それにいくら装備を整えてもオニヒトデの毒針から完全に身を守るのは不可能だろう。危険だ」
「はい……」
「そしてニャンダイチ。君の案も間違っている」
「まっ。そうでしょうね」
ニャンダイチ君は相変わずのポーカーフェイス。
若き日の僕は彼のこの表情が大嫌いだった。
「ホラ貝がオニヒトデを食べるスピードとオニヒトデが殖えるスピードが違いすぎる。結局オニヒトデは増え続けるだろうし、ホラ貝を大量に集めるというのは時間もコストもかかりすぎる。しかし頂点捕食者かと思われるオニヒトデの天敵。ホラ貝を使うというのは悪くない。ニャームズに1ポイント。ニャンダイチに2ポイントといったところだな」
「ありがとうございます」
「チッ……」
「さて……現段階での最善のオニヒトデ対処法は薬液注射だ……それも酢酸がいいだろう。一匹辺りのコストも数円ですむしな」
読者諸君は「なぁんだ酢酸注射? 常識じゃないか」と思うかも知れないがこの当時は薬液注射でオニヒトデを駆除するという発想は人間たちにはなかった。
さすがは我が師であるといったところである。
「そんな楽しい講義をしている内に【カンパチ島】まであと少しのようだ」
【カンパチ島】……多くのプロスポーツ選手と優秀な研究者を輩出する孤島である。
「さて……やはり【マローニ・スターフィッシュ】氏もこの島に用があるようだな」
先生は長身の男に視線を移した。
【マローニ・スターフィッシュ】……
差別撲滅運動を世界中に広める【スターフィッシュ・カンパニー】のリーダーであり、ハンサムな大富豪。
されど彼は傲ることのない人格者で誰に対しても別け隔てなく愛を振り撒き、差別を無くすために自ら世界中を旅をしている。
「【トップオブトップ】。【ミスターパーフェクト】。【誰にも嫌われない男】。彼のニックネームはどれも大したものだ。氏はこの島に何をしに来たのだろうか?」
「さぁ……」
僕はマローニ氏を睨み付けた。
【マロ『オニ』・スターフィッシュ】
スターフィッシュは英語でヒトデ……彼の名前がオニヒトデに似ていることからこの講義が始まったのだ。
『何が誰にも嫌われない男だ。君がいなければ僕はかかなくていい恥をかかずにすんだんだ。少なからず僕は君が嫌いだ』と僕は思ったね。
言いがかり? 逆恨み?その通りだ。
だがそれに気づかぬほど僕は若かった。若すぎたのだよモーガン。