モリ・ニャーティー
これは僕の過去の物語……よく聞いてくれよ? モーガン。
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「ふざけたことを言うなよ。ニャンダイチ」
「落ち着けよニャームズ君。僕はふざけていませんよ」
あれは僕がまだ今よりずっとヤング・キャットだった時代の話だ。
僕が詰め寄っている長毛の黒猫が【ニャンダイチ】君……
それを無言で睨んでいる片眼鏡のスフィンクス※(猫の種類)が僕たち二匹の先生……偉大な冒険家であり、ニャーバード大学教授でもある【モリ・ニャーティー】先生。
僕たちは大海原を客船に乗ってとある島に向かっていた。
。
「僕は君のそのいい加減な所が大嫌いなんだよ! いい加減にしろ!」
「そういわれてもなぁ……」
気づいたかい? この頃の僕はかなり気性が荒い。
熱しやすく冷めやすい。無鉄砲で話を聞かず、世界は自分中心に回っていると信じ疑わないどこにでもいる若者だった。
「オーケー……じゃあどっちが正しいか決闘でケリをつけようぜ。僕のニャッパーカットと君のブーメニャンフック……どちらが強いか以前から比べたかったんだ」
「やめようニャームズ君。武力行使は猫紳士らしくないじゃありませんか」
「黙れ!! ジャパニーズ・イエローキャット※(差別用語)に猫紳士のなにがわかる!? 僕は誇り高いイギリス猫だぞ!?」
僕は若かった。彼のニャー術の実力は私を遥かに凌ぐが、若い私は『選ばれし者である自分が負けるものか。実戦になれば自分が勝つ』と思っていた。
「……そろそろやめないか」
「うっ……」
僕は振り上げた肉きゅうを下ろすしかなかった。
モリ・ニャーティー教授の言葉は弟子である私たちにとって絶対である。
「……ですが先生。ニャンダイチはあまりにもデタラメで……」
「デタラメではありませんよ」
「キサマっ!」
「……よろしい。それでは講義を再開しよう。テーマは『珊瑚礁を破壊するオニヒトデが大量発生した場合どうすべきか』だったね?」
「はい」
「そうです」
「それでニャームズの答えが……」
「はい。『人間のダイバーに駆除をさせる』です。コレしかありません」
「なぜ?」
「オニヒトデには猛毒があります。天敵もいない頂点捕食者ですので同じ頂点捕食者の人間自ら装備を整えて引き揚げ、焼却処分するしかありません」
僕はこの答えに自信があった。
「ははぁ。それでニャンダイチは?」
「僕は『大量のホラ貝を放つ』です」
「ニャンダイチ……いい加減にしろよ……」
僕は尊敬すべきモリ・ニャーティー先生の前でよくそんないい加減なことを言えるなとイニャイニャした。
「ニャンダイチ。それはなぜかね?」
「そりゃあ……」
ニャンダイチ君はノミだらけの頭を肉きゅうでワシャワシャとかき混ぜながら答えた。
「ホラ貝だけはオニヒトデの毒が効かず、補食することが出来るからです」
「にゃに!?」
「うむ」
僕は目を見開き、先生は笑顔を浮かべ頷いた。




