ハリモトフジン
「こ……これはどういうことだ!! ニャームズ!?」
「君のためだ。ニャトソン君」
ニャームズに連れていかれたのはアパートの一室……私は【ジョシダイセイ】の【ハリモトフジン】に部屋に入るなりシャンプーをされていた。
「ニャトソン君。心配することはないよ。フジンはテクニシャンだ」
「なにを!? フシャー!!」
「暴れないの!! ニャーちゃん!! 今日から君はうちの子だよー」
「ニャーちゃんとはなんだ!?」
「ニャトソン君。フジンにとって全ての猫は【ニャーちゃん】なのだ。諦めたまえ」
「クソッ!!」
「ハァイ。きれいになりましたぁ〜♪ それでは……」
「始まるぞ……フジンのお・も・て・な・し……が」
「おもてな……にゃにゃ!?」
これには大変驚かされた。
フジンの指先が私の全身を愛撫するように優しく動き、まるで私は天国に昇るような気分になった。
「ナナナ……ゴロゴロゴロ……」
不覚……人を信じぬと心に決めた私が喉をならし、あれよあれよと耳掃除をされ、爪を切られ、首輪までつけられてしまった。
「言ったろう? フジンはテクニシャンだとね……」
「おのれ……一生の不覚」
私は全てを諦めた。
その後、私は食事をし、きれいな水をたらふく飲み、ニャームズにこの場所でのルールを教わった。
「ここがトイレだ。君は黒い方を使いたまえ。爪研ぎはアレ。あんなもの私には必要の無いものだ。あとは……」
「もういい。わかった」
「ご機嫌ななめだね? ニャトソン君」
「当たり前だ。まさかまた人間と暮らす日が来るとは。飼い猫になるとは聞いてなかったぜ……ところでニャームズ。君はなぜ同居人を探していたのだい?」
「ふむ……君には僕の仕事を手伝ってもらおうと思ってね」
「仕事? それはなんだい?」
「そのうちわかるさ……おや? フジンが呼んでるぜ? きっと添い寝の相手を探しているのだ。ニャトソン君。君がいったらどうだい?」
「馬鹿な!! 冗談ではない!!」
「ニャトソン。君が【猫紳士】を名乗るなら一度ぐらい食事のお礼にベッドを共にしてもよいのではないかな? あまり大きな声では言えないが、フジンはベッドの上でもテクニシャンなんだぜ?」
「私は猫紳士などを名乗ったことはない。だが君のいうことも間違ってはいないな。一晩だけそうしよう」
正直、私は久しぶりにベッドで寝てみたくなったのだ。
「素直じゃないな……それじゃあおやすみ……」
ニャームズは安楽椅子の上に置かれた毛布にくるまった。
ここはニャームズの定位置のようだ。
「ふん……」
「おっといい忘れた」
「なんだ?」
「これからよろしく頼むよニャトソン君」
「あぁ……」
○
「ナナナナナ……なごーん♪」
ニャームズのいう通り、フジンのベッドテクニックはすばらしいものだった。
私は腹と喉をエンゼルタッチで撫でられ、久しぶりに穏やかで深い眠りについた。