ねこざんまい!
ねこざんまい!
「はっ! よっ! さっ!」
「……あらあらあらあら」
「早く! カロリーヌさん! 無くなってしまいますよ!」
パンチー姿のフジンが踊るようにカリカリをたくさんの器に落としていく。
そしてそのカリカリにこの家に集まったねこたちが一斉に突進していく。
これが我が家の名物『ねこざんまい』である。
結局うまく食べられなかったねこにはフジンが個別でご飯をくれるのだが、これが楽しい。
よっ! ねこざんまいっ!!!
○
「あら。このお魚おいしいわ。なんのお魚かしら?」
カリカリを食べ損ねたカロリーヌには猫缶が与えられた。
「さぁ?」
猫缶の魚が何かだなんて意識したこともない。
「ヒラメのテリーヌより美味しいわ」
「てり犬?」
よくわからないが、彼女の食事は我々の物とは大分違うようだ。
「それに皆で食べるご飯ってとても素敵。楽しいです」
「それは何より!」
安楽椅子の上でニャームズはちゅーるを一本上品に食べていた。
この家で彼は特別で、彼の食べるものには誰も肉きゅうを伸ばさない。
しかしちゅーるをあんなに上品に食べるねこは彼意外他にいない。
みんなあれを狂ったように吸いしゃぶるというのに。
「さて。……行くかな」
「おや? こんな時間に出掛けるのか?」
「うむ。例の通りニャ事件の調査をケーブに頼まれている」
「通りニャ事件!? 私も知っています!」
『白子町連続通りニャ事件』。
若いメスねこに『お尻の匂いを嗅いでもよいかね?』と効く変態がねこ界隈を騒がせている。
この件もあって白子町の評判は益々悪くなった。
「ニャームズさんはお忙しいのですね……」
「NOとは言うのに躊躇いがあるほどには。忙しいのはフジンも一緒です。ほら」
私とカロリーヌがフジンの方に視線を移すと、フジンはパーソナルコンピューターなるものとにらめっこをしていた。
「あれは……何を?」
「猫会議です。『ねこうんち問題』はご存じですかな?」
「ねこうんち……」
「どうやら。初猫耳のようですね。ニャトソン君。説明してやれよ」
「うむ」
『ねこうんち事件』。
ねこがそこら辺にうんちしてしまう事件だ。
……そのままだな。
私やニャームズ。
ニャームズにしつけられたこの家のねこはそこら辺にうんちなどしないが、最近は野良猫たちが増えてきてマニャー無きねこたちが民家の庭などでうんちをするという事が増えた。
人間とねこの共存の為にはこの事態はよろしくない。
ねこを飼う人間とそうでない人間が仲良しではなくなってしまう。
家猫たちはそわそわするし、ねこたちの面倒を見るフジンの肩身も狭くなる。
なのでフジンは同じ猫好きたちと協力し、この問題に取り組んでいる……らしいのだが、どうにもうまくいかない。
我々は犬ではない。
『人の家でうんちをしてはいけませんよ』と言われてもほとんどのねこは『にゃんで?』となる。
「……まぁ。そういうことなのです」
「……そうでしたの」
こんな説明でもわかってくれたのか。
カロリーヌは世間知らずだが、頭がよくないわけではないようだ。
「カロリーヌさん。知ることってのはいいもんでしょう? あなたのトラウマもきっと『知ること』で消えてなくなることでしょう。まぁ世の中には知らぬが仏……おっと! お迎えだ!」
「ニャームズさん!」
町の平和を守るドーサツのエース。
ミニチュアシュナウザーのケーブが猫用玄関からヘッドスライディング入室してきた。
私はこれに慣れることは一生ないだろう。
なので驚いてバンニャイしてそのまま後ろにスッテンコロリンした。
「いらっしゃい! ケーブ! こちらカロリーヌさん」
「こ……こんばんは」
「いや! どうもこんばんは! 美しいお猫さんだ! ゆっくりお話したいところですがニャームズさん! 白子町にまた通りニャが!」
「では急ぎましょう。ニャトソン君。今夜の君の仕事は彼女を寝床に案内することだ。ちゃんとスウィートなトークでリラックスさせるんだぜ!」
ニャームズはそういってケーブに跨がり夜の町に消えていった。
置いてきぼりかと寂しくなったが、いやいや依頼猫であり入院患者である彼女をリラックスさせるのは大事な仕事だなと気持ちを切り替えた。
「あっ。ちなみに私は去勢済みです」
「はぁ……」
レディの寝床に忍び込む様な無粋なねこはここにはいないが、一応は言っておこう。
「よっ! ねこざんまい!」
「はぁ……」
完璧な仕事だ。
つづく。
ねこざんまい!!!!!