飛べない鳥の囀り
ロシア・鳥少年で検索。
連行されていくアムリア。
保護されたクリス……。
「チュッ? チュチュチュ?」
警察も大分クリスに戸惑っているようだ。
クリスは先程から《人語》を一切口にしていない。
……鳥語だ。
「鳥には優しいからクリスも大丈夫……カラスのこの言葉で僕はある事件を思い出した」
「どんな?」
「うむ。それは……」
信じられない話だが《実の息子を鳥として育てた》親が実在したらしい。
少年は鳥の餌を食べ、鳥たちと暮らした。
保護された少年は今のクリスのように鳥のようにさえずることしかできなかったようだ。
「カラスはクリスの言葉を理解していたし、クリスも鳥の命令にしたがって檻からでてきた……これは確実にあの事件の再来だと思ったね」
ニャームズはそういいながら懐から玉ねぎシガーを取りだし火をつけた。
「刃物の使い方はアムリアが猫を殺すのを見て学んだのだろう。悲しい唯一の教育だ」
「……クリスも猫を食べたのかな?」
「それは考えなくともいいことだ」
……そうだな。
あっ……一つ気になることがある。
「カラスはクリスがもう一つ鳥語を話せると言っていたが……あれは……?」
「君が聴いたあの言葉さ」
「暴れるな! 落ち着くんだ! きみっ!」
《飛びたい! とびたーーい!》
「……あっ」
警察にはチュンチュン言ってるようにしか聞こえないだろうが、クリスは《飛びたい》と言っていた。
あの時の声は……クリスのものだったのか。
「彼の中の人間の心がそう叫ばしたのかもね。大丈夫。これからは偽物の鳥として飛ぶよりも楽しいことが彼の人生には待っている。人として生きるんだから」
「……」
ニャームズがそう言うならそうなのだろう。
彼が足紐を引きちぎり本当に七階から《飛ぶ》前に止められて本当によかったと思う。
「日本に帰ろう」
「……そうだなぁ」
……
「しゃあ!」
《飛べない鳥の囀り》事件。
完結だ!
これをニャーランドに送れば1ヶ月休める!
「……どうぞ」
コンコンとノックする音がしたので入室を許可すると……うへぇ。
例の鬼猫担当だ。
でも恐れることはない。
私は今月分の原稿を書き上げてあるのだ。
「先生……原稿を受け取りに参りました」
「ドニャァァァ!」
渾身のドニャ顔である。
彼女が原稿を取りに来て原稿が仕上がってたことなど今までなかろう?
「確かにいただきました……が、私が取りに来たのはエッセイの方なんですけど?」
エッセイ? エッセイ?……はぅあ!
(物語を書くよりは楽じゃん!)と軽い気持ちで引き受けた《猫の古町》というお散歩エッセイのことを忘れていた~! ひ……一文字も書いてない。
「ちなみに……締め切りいつだっけ?」
「今日です。だからきました」
「うわあぁぁ!」
「先生!?」
私は窓を開けて逃げ出そうとした。
だが担当が私の胴にしがみついて止める。
「飛びたい! とびたーーい!」
「飛んだら死んじゃいますよ!」
鰹が丘に飛べない猫の叫びが響いた。
2017年復刻ニャーランド掲載
《飛べない鳥の囀り》
完。