刃物鳥の謎
「じゃあいこうか? ニャトソン」
「いまからか?」
今日あったことをニャームズに話すと彼はそう言った。
このくそ寒いのになんて身軽なオスだ。
「私の聞き間違いかもしれない」
「聞き間違いでないかもしれない。それならば困っている動物がいるかもしれない。いかねば」
「……そうだな」
ニャームズに小馬鹿にされながらも私が彼と友であるのは彼のこういった所を尊敬しているからだろう。
(苦しみや悩みを抱える動物や人を一分一秒でもはやく救いたい)
珍しくニャームズが酔っ払った時にポロリと言った言葉である。
「こいつをつけろ」
「なんだこれは?」
「揉んでからタキシードに貼れ」
ニャームズがよこしたのはネッコイロという人間の世界でいうカイロだった。
ぬくい。
これならば大丈夫だ。
私たちは正装をしてあのアパートに向かった。
……
「なぁんだ。また来たのか」
アパートの近くにあの顔のこわい猫がいた。
「あまりこの辺をウロチョロされると地元猫としては気分がよくねぇな」
うむ……やはりどこの国でも縄張りという概念がある。
この場合退くべきは私たちなわけだが……そう思っていたらニャームズがなにやら手帳を取りだし、開いて見せた。
「こういうものです」
「ああん?……にゃ……《ニャンコーポール》!?」
にゃんこーぽーる? にゃんだそれは。
「これは失礼した。俺はドムといいます。なんの調査で?」
ドムというのか……しかし態度がガラリ変わった。
ニャームズのあの手帳はなんなんだろう?
「例のアパートまで案内してくれますか?」
「もちろん。しかし旦那も猫が悪い」
これは私に向かって言った。
「国際ドーサツ……ニャンコーポールの捜査官ならそう言ってくれればよかったのに。昼間は失礼しました」
「……いえいえいえいえ助かりました」
私も今知った。
私はニャンコーポールなのか。
ドムが案内のため歩き出すとニャームズは茶色の手帳を私の懐にいれた。
「君の分だ。これがあると便利だよ」
《ニャンコーポール・ニャトソン》か。
カッコいいじゃないか。
便利そうだし気に入った。
余談だがこの手帳は日本に帰るときに無くした。
ニャームズにすごく怒られた。
「つきました」
間違いなくあのアパートだ。
相変わらず不気味だな。
鳥たちは夜になったからか静かになっている。
「あすこは評判悪いです。アムリアとクリスの母と子の二人暮らし。母親は働いてるみたいですが、5~7歳になる息子は街でみかけたという話はききません」
「評判が悪いというのは?」
「まー。鳩だかなんだか知らないですが、部屋のなかであれだけたくさんの鳥飼ってりゃね。だからかあのアパートには住人はほとんどいないんだ」
「ははぁ。確かに明かりがついているのは七階の例の部屋と三階あたりまでだ」
「それだけじゃあない。あすこに非常階段がみえるでしょう? ……ちょっと不気味な。鳥がわんさかいるからね。何匹かの猫があの階段を使って部屋の近くまで行って鳥を狩りにいったんですがね……どうなったと思います?」
「……」
「帰ってこないんですよ。一匹をのぞいてね」
なんとも恐ろしい話になってきたじゃないか。
アパートの七階でたくさんの鳥を飼う母子。
その鳥を食べようと部屋に向かった猫たちが帰ってこない。
鷹や鷲でも飼っているのだろうか?
※人間はどう思うかわからないが、動物たちが食べたり、食べられたりするのは仕方ないことなので、猫の狩りについての私たちのリアクションは薄い。
「なんとも言えないじゃないか。なぁ? ニャトソン?」
「うむ。事件という事件は起きてない……かな?」
弱肉強食。
鳥を食べようとした猫が逆に食べられた。
それは仕方がない。
しかし気になるのは「飛びたい」そう言った鳥のことだ。
飛びたい……怪我をした鳥がいるのか? 仲間内でいじめられているのか? 人間に虐待されているのか?
それならば放っておくのはスッキリしないな。
どうするべきか考え、私たちはドムの案内で生き残った猫に会いに行くことにした。
「案内するのは構いませんがね。あの事件以来あいつは同じことしか言いませんよ」
「なんと?」
「狂っちまったんです。「くちばしも羽も刃物の化け物鳥がいた」ってね」
「刃物の化け物!?」
(……そんな鳥がいるのか?)
ニャームズがそう呟いたのを聞き逃さなかった。
ニャームズも知らぬ化け物があの部屋にはいるのだろうか?
つづく。
オワコンでもまけない。




