ここはウラクダストック。
「あっつ!」
「だから言ったろう?」
私はコートを脱いだ。
ニャームズの知り合いの人間のメイドたちがいる屋敷はとても暑かった。
室温は30度近かったと思う。
人間なら半袖、私たちなら地毛で充分だ。
こんなに暑いというのにメイドたちはあんな暑そうな服を着て無表情だ。
プロだなぁ。
彼女たちはニャー語は話せないようでニャームズと身振り肉きゅうぶりで会話し、奥の部屋に案内してくれた。
「ほぉ~?」
「好きなところに座れよ」
バカみたいに長いテーブルだ。
上座と下座に座ったら会話なんてできないだろう。
なので私はニャームズの左隣にちょこんと座った。
パチンッ!
どうやったかわからないがニャームズが肉きゅうパッチンをならすとメイドたちが食事を次々運んできた。
「ザクースキ(オードブル)だ好きにやりなよ。おぉっと! その前に乾杯だ! これを飲みたかったんだよニャトソン!」
ショットグラスに注がれる魚ッカ。
確かに……香りがまるで違う。
「乾杯」
「乾杯」
もちろん一気である。
ヒゲがカーっとなるな!
こんなに透明なのになんと奥深い味だ。
穀物というか魚臭いがそれがいい! 最上級のイワシを使っているな!
「どれ……食事もいただくか……アニャ?」
情けないことに今の一杯でグニャングニャンになってしまった。
うむー。
「……あっ、こりゃ失礼」
メイドが私を抱っこしてテーブルに置いてくれた。
ニャームズもフォークとナイフを持ってすでにテーブルの上にいる。
猫の切ないところ。
どれだけカッコつけてお座りしても、人間サイズのテーブルだと、マニャー違反だが、テーブルの上に乗るしかない。
二本足で立てるのが救いか?
うーん。
酒を飲みながらオードブルを楽しむ……最高だ。
ウシア料理……いや、ロシア料理は私の口に合った。
とくに鳥飯……いや、プリメニというロシアの水餃子がよかった。
そしてそこから先の記憶はない。
……
「うおっ!」
狭い額の鋭い痛みと喉の乾きで目が覚めた。
ベッド……?
「あー」
ここはロシアだったな。
二日酔いか……くそっ!
「……どうぞ。かな?」
ノックが聞こえたので返事をした。
私の部屋なんだよな? ここ?
「やあ。お目覚めかい? ダイノジ君」
ニャームズとメイド……なんだダイノジ君とは?
「酔っぱらって大の字になって眠る君は滑稽極まりなかったぜ」
「……むぅ」
このオスは私でよく笑う。
この笑顔をメスに見せれば大概の動物は恋のキャット・アウトだろう。
「あっ……どうも」
メイドから水の入ったコップを貰って両の肉きゅうでコップを押さえ、喉に水を流し込んだ。
「んあ~あ……」
……うまっ。
二日酔いの朝の水は世界で三ヶ所の肉きゅうにはいるうまさだ。
「さて……僕は出かける。君は休むなり観光するなり好きにするといいさ」
「用事があるのか?」
「うむ……ここのアニマル大統領に一応連絡をしたらエリート大学の講義を頼まれてしまってね。教鞭をとってくるさ」
「ふーん」
うネッコはどこにいっても、うネッコか。
私なんかアニマル商店街の動物モノマネ大会の審査員ぐらいしかしたことないのに。
楽しかったけど。
ニャームズが行くようなエリート大学の講義なんて頼まれてもやりたくないけどね。
「観光か……散歩ぐらいするかな?」
「3歩で帰ってくるなよ?」
「うるニャイ!」
出掛けよう。
……
《ウラクダストック》
ご丁寧にニャー語で書かれた看板があった。
「ウラクダストックか。都市だな」
さて……どこにいこうかな?
つづく。
だじゃればかりおもいつく




