《彼》の復活。
例のゾウガメ事件とは本当に関係ありませんよ?
(アブゥはつれてけないんだよ……)
(なんで!? アブゥ! アブゥー!)
ある日突然パパさんと太一くんがいなくなった。
僕は山に置いてかれ、とても寂しく、苦しい毎日を送った。
ああ……寒いなぁ。
……死んじゃうかも?
いやいやいや! いつかパパさんも太一くんも迎えに来てくれる……。
絶対生き延びてやる。
……
20年ほど経った。
私は生きていた。
この場所を見つけられて幸運だった。
飯をくい、水を飲み、時々温泉につかり、トンネルを掘る毎日を送っていた。
地上に出る気もないし、どこに行きたいわけでもないのだが……。
二人が迎えに来てくれることは……一月で諦めた。
私は捨てられたのだ。
ふん……こうしてトンネルを堀ながら、時々聞こえる人間の声に耳を傾ける一生もわるくない。
……
この日は信じられないことが起こった。
あの家に……太一くんが帰ってきた。
すっかり大人になっていたが私にはわかった。
間違いない……あの連れている子は太一くんの子供だろうか?
パパさんは……? あの写真は!?
イエイとかいう写真だ。
あれは死んだ人間の写真だというのを私は薄々感づいていた。
そうか……パパさんはなくなったのか。
私を迎えに来てくれた……なんて思わなかった。
何故なら太一くんは真っ先に私がいたあの部屋を取り壊したからだ。
いいさ。
こうしてまた顔を見れただけで。
……
親子の様子がおかしい。
太一くんも子供も毎日同じ服を着ているし、ごはんもあまりたべない。
「新しい仕事が見つかるまでもう少しの辛抱だ……ごめんな」
「……大丈夫だよ。パパ」
それが親子の口癖だった。
もしかして彼らはおカネがないのではなかろうか?
人間にはそれが必要だと私は知っている。
なんとかしてやりたいが……なにかおカネをかせぐ方法はないだろうか?
……
「俺様を脱走させてくれたらおカネが手にはいるぜぇーい?」
「本当か?」
動物園の地下まで掘り続けたトンネル……私はひょんなことからこのルパンとかいう亀と知り合いになった。
「俺様が脱走したとなりゃあー大事件よ。ケンショウキンがでるはずよ」
「ケンショウキン?」
「見つけてくれた人へのお礼みたいなもんさ。あんた……アルダブラゾウガメだろう?」
「……多分な」
パパさんがそんなことを言っていた覚えがある。
「おーれしゃまにいいアイデアがあるんだよねぇ」
「聞こう」
……
私は……ルパンの案をのんだ。
ルパンを脱走させ、あの場所に保護し、懸賞金がでたら私が太一くんの前に現れルパンの代わりに捕まる……。
「あんたすこーし老けてるけどあの動物園の飼育員ぐらいなら騙せるよ。山にゾウガメが二匹いるなんて考えられないだろしねぇ」
「……」
「おーれしゃまはあんたが捕まって山から人がいなくなったらゆーっくりトンネルを掘って脱走するさぁ~」
「好きにしろ」
……
「……嘘だろ。15分しか捜してないのに……」
「パパ! はやくつかまえよ!」
懸賞金がでた次の日、私は太一くんの前に姿を現した。
さぁ太一くん。
捕まえてくれ。
懸賞金……いくらかわからないが……私からの恩返しだ。
二十年前のあの日々は私の最高の宝物だった。
「網……網……」
落ち着け。
逃げない。
本当に大きく立派になった。
私に全く気がついてくれないのは少し残念だが……いいさ。
こうして……私は太一くんに捕まり、太一くんは懸賞金を得た。
一生を動物園で終えることになるが後悔はない。
……
動物園に突然現れた猫にどうやら私の正体がバレたようだ。
……問題ない。
猫に何ができる。
……
動物園に太一くんがやってきた。
太一くんはあの時、私を可愛がってくれた少年の日のあの表情をしていた。
泣いてしまった。
太一くんも泣いていた。
太一くんが飼育員の一人を捕まえて叫んでいる。
「あれはうちの亀です。僕の友達の……アブゥです!」
……
「……驚かされました」
私は報告書を閉じた。
二匹の亀が入れ替わっていたとは……驚くべきはアブゥの献身的すぎる愛だ。
自分を捨てた飼い主に……。
「しかしどうやってルパンがアブゥだと太一に伝えたのです?」
「簡単ですよ。(動物園の亀をよくみてごらん。あなたの友達ににていませんか?)そう手紙を書いてポストにいれただけです」
「なぜルパンとアブゥが入れ替わっているとわかったのです? ニャンダイチもあなたも一目で理解したようですが……」
「そりゃあ……ね? 何十年も生きた亀と若い亀ぐらい見ればわかりますよ」
私にはさっぱりわからなかったが……。
「動物園も亀がルパンでないことに気がついたようですし、本物のルパンがどうなるか? アブゥが再び太一と暮らせるか……それはどうなるかはわかりませんが、悪いようにはならんでしょ」
「ふむ……最後にもう一つ質問が……」
「なんでしょう?」
「今から何が起きるのです?」
私たちはニャームズの家から離れた繁みに隠れている。
そしてタマは……物騒な物を組み立てている。
これは……キャットガンじゃないか?
「説明は後々。来たぞ! 静かに!」
「???」
老若男女……ダンディーな老人を先頭になんとも統一性のない人間たちがニャームズの家にやってきた。
なんだ? あいつらは?
ここは人間には秘密な場所なのだが……。
「とうとうこの時がきたな……」
「……タマさん?」
キャットガンを人間に向けて構えるタマ……嘘だろ!?
タマが弾を……
ダダダダダダダッ!
「撃ったーー!」
次々と倒れていく人間たち……そして最後の老人が倒れた。
「おのれ……私を嵌めおったな……ニャームズ……くそっ!」
「眠れ。モリニャーティー」
「え?」
ニャームズ? モリニャーティー?
「こいっ!」
タマが肉きゅうを叩くとどこからか人間たちが現れ、タマが撃った人間を次々運んでいく。
ダンさんもいる。
「終わったね……」
「うむ……長かったよ」
「こっちは任せて」
「頼んだ。あとで合流しよう」
ダンたちはあっという間にいなくなった。
「……」
言葉を失うしかない。
「何をぼぅっとしてるんだい? 悪は滅びた。今日はパーティーだな。ニャトソン」
……ベリベリベリベリ。
タマが毛皮を脱ぐと……
「……嘘だ」
「……ふぅ」
ニャーロック・ニャームズがそこにいた。
「……君は……君は」
何を訊いていいのやら……。
「……君はタマ?」
「いや、ニャームズだ」
「でしょうね! ……う」
私は驚きのあまり失神してしまった。




